その9 心まで乱気流 (6年生1月)

その9 心まで乱気流  (6年生1月)

 年が明けた。年末年始は怒涛の冬期講習や正月特訓。Sもようやく受験生になってきたのか、年越しテレビを見たいと言うこともなく、机に向かう普通の日として年末年始を迎えた。
 私は急に思い立って、1月入試が始まる直前に、学問の神様がいる天満宮に、Sを連れて合格祈願へ。お参りでにぎわう境内は、紅白の梅もすでに咲いていて、よい香り。祈祷で読み上げられた志望校がSとかぶっている男の子もいたが、気にしない、気にしない。
 昔、自分も手にしていた学業成就の鉛筆の格言は、「あせらず たゆまず おこたらず」「一歩 一歩 進め」など変わらない。いまも同じように受験生を励ましているなんて、と感慨深く思っていたら、目を離したすきに、夫と子どもたちがおみくじを引いていた。心臓に悪すぎる。Sは大吉だったとニコニコ。Yは小吉だったと涙目。一喜一憂したら、何かのフラグが立ちそうだから、もはや何も言うまいと、アルカイックスマイルでおみくじを結ぶ様を見守る小心者の私。

 さて、1月最初の受験校は、夫に送り迎えを頼んだが
「まったく緊張しなかった。模試のほうが緊張したかも~」
とさわやかに帰ってきたS。緊張でガチガチは困るが、まったく肩に力が入らないのもどうなんだろうと首をかしげたくなる。川沿いで、なんかのんびりしていていいんだよね~と、夫もSも気に入って、第4志望に設定した学校だ。
 結果は、無事に合格をもらうことができ、まずはほっと一息。WEBでポチっとすると、いきなり合格不合格が出る、いまどきの発表形式にドキドキしたが、幸先のよいスタート。

 1月の2校目は、チャレンジ校。遠くて実際は通えないが、お試し受験に落ちることで、Sに危機感を抱かせて奮起させるために受ける。事前にFCの先生と「1月は1勝1敗で行きましょう」と作戦を相談してのことだ。
 大きな会場で大勢の親たちとともに、子どもをひたすら待つ時間は何とも言えず…親子の数だけいろいろなドラマがあるんだろうなぁ、とせつないような気持ちでまわりを見渡す。あまりにも待ち時間が長かったためか、試験を終えて列になって出てくるSを迎える頃には、あぁ、うちの子と同じような、半そで半ズボン族は、令和の時代にもまだ生き残っているんだな、と見当違いの感想を抱く。出てくる男の子のうち、50人に1人くらいは、半そで半ズボン。1月のこの寒さで、よくもまぁ。
 結果は、目論見どおり、不合格。すっかり声変わりも完了した低い声で、FCの先生に不合格を報告する電話の声は、場違いに明るく軽い。

 1月後半、ここから、Sのモチベーションはダウンしていった。インフルエンザもコロナウイルスも流行っていたので、迷った末に学校は休ませたのが、Sには凶と出たようだ。毎日、家と塾の往復。息が詰まるようで、「あとちょっとだから」と持ちあげると、立てた予定はなんとか消化するが、ふとした瞬間に、後ろ向きな言葉を毎日のようにこぼす。しまいには
「もう1こ受かったし、受験終わりでよくない?」
と言い出す。もともとあまり勝ち負けにこだわらず、マイペースなところが長所とも言えるが…これには私もがっくりした。

 たまたま電話で話した友人に、衝撃をこぼしたら
「ゴールの共有がSとできていなかったんだね」
とぐうの音も出ないコメントをもらう。昔の少女マンガだったら、大きなギザギザの矢が胸に刺さり、ガガーンと、顔半分に思いっきり斜線がかかっていることだろう。子どもにつられて親の気持ちも乱気流のように上下しているいま、正論は威力がありすぎる。家庭のなかでゴールを共有し続けるって、なかなかに難しい…家族会議を定例にするのがよかったのかなぁ…とつい泣き言が浮かぶ。あぁせめて子どもには、この動揺を見せまい。

 さて、困ったときは塾へ。先生に相談して、自習室にSを誘ってもらい、モチベーションを上げてもらうことにした。おかげでやや持ち直したが、こんな調子で、本命(のはず)の2月の受験はいったいどうなる…!

花まる学習会 川波朋子

【登場人物紹介】

:東京都内の私立中高一貫女子高出身。過去にはスクールFCで小中学生の英語も教えていた、花まるの先生。わが家に神棚はないので、合格祈願のお札をよさそうなところへ飾ったが、固定が甘く何度も落ちる…。自分の揺れる心は、いくつかの中学受験小説を読んで慰める日々。

:地方の公立校出身。コロナを経ておうち時間が増え、家事も育児もこなせるようになってきた子煩悩パパ。1月、2月は有給を使って、私と交代で息子を全力サポ―ト。

長男 S:のんびりマイペース長男。1月末の大寒波。ベランダのバケツに張った氷に、せっせと水を足しながら育てていた。透明度の高い氷が分厚くできて、小学生新聞に載っていたあれだ! と嬉しそう(冷凍庫に比べて、ゆっくりと凍るから、空気などの不純物が含まれず白く濁らない)。

次男Y:お調子者の保育園児。1月31日の夜「お兄ちゃんは明日すっごく頑張る日だから、食後のイチゴはお兄ちゃんに多めにあげて応援しようね」と言ったが…寝る直前まで、なんでお兄ちゃんだけ…と不満たらたらの甘えん坊。

わが子の中学受験カテゴリの最新記事