その8 もしや受験撤退!? (6年生12月)

その8 もしや受験撤退!?  (6年生12月)

 12月頭のある夜、運動不足解消のために、家族4人で近所の公園へ走りにいった。ポツポツとした蛍光灯だけが、公園のグラウンドを照らす。しばらく走っていたSが、ペースダウンし始め、すでに歩いていた私に追いつく。寒いね~なんて話題のあと
「いよいよ受験が近づいてきたね~」
と水を向けると、Sがボソッと言葉を吐く。
「…もう受験さ、いつ辞めてもいいんだけど」
「えっ!?」
「なんかもう疲れた」
「え!? ええー!? だって…えっ、だって…5年になるときに、Sがやるって決断したから…みんなでバックアップしてここまで来たんだけど…」
「だって、こんなに大変だと思わなかったんだ…なぞぺーの延長の算数だけかと思ってたんだよ。四科目もあるなんて大変すぎる。H(仲の良い友人)も公立中だし…」
「えええええ、ウソでしょ」(絶句)
 心の中では、(いまさら、何を言っているのー! 課題も倍々になるって説明したよーーー!)と言葉が溢れつつ、いつになくボソボソしゃべりのSの言葉に動揺して、
「そっかぁ…そうなのかぁ…ちょっと…パパにも相談してみるよ…」
としか言葉を返せない私。そうこうしているうちに、次男のYが割り込んできて、その日は言葉を交わすこともなく、帰宅。ぐるぐるしたまま子どもたちは就寝時間に。

 夜、夫に相談すると、あっさり返答が。
「少し前からよく言っていたよ、風呂で」
「えー、早く教えてよ! なんて返していたの?」
「大変になってきたからな、その気持ちはわかるけれど、ここまで来たらもうちょっとだから、頑張ろうって」
「な、なるほど…Sの反応は?」
「まぁ、そうだけどさ~みたいな感じ」

 …ここで選択肢は2つ。
①「家族会議を開く」
Sの言い分を聞き、今後の方向性を決めていく。気持ちを切り替えて中学受験続行か、もしくは勇気ある撤退(高校受験へ回る)か…。
②「おおごとにしない」
気持ちを受け止めつつ、おおごとにはせず、応援し続ける。子どもだって、モチベーションは上がり下がりする。ましてやSにとって、はじめての試練といってもいい場面。課題や過去問など、毎日やるべきタスクに追われて、朝から晩まで自由時間もほとんどなく、泣き言を言いたくなる状況なのは確か。

 夫と話した結果、よくもわるくもまだ精神的に幼いSの内面を考慮し、我々の希望も加味して、②「おおごとにしない」路線で行こうとなった。なんだかんだ「やろう」と言うと、「え~」とか言いながらも素直に机に向かっているし、我々は引き続き応援するスタンスでよいのではないか、と。一緒に最後まで頑張った結果、「終わりよければすべてよし」になる可能性を信じて。

 さて、引き続き頑張っているSに、何かできることはないかと考えた結果、Sの集中力が上がるような食べ物を! ということで、向かった方向は、食のバックアップ。主食の炭水化物のほか、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、カルシウム、鉄分をできるだけ3食全部で提供、というのが基本路線。そして血糖値を下げないために、補食も準備。料理下手な自分には正直きついが、できるところから。振り切れた私につきあわされているSは、毎晩の納豆に渋い顔…。
 1月校の受験まで、あと正味1か月。受かっても落ちても、Sのためのよい時間にしたい、と祈るような気持ちが湧き上がる12月。

花まる学習会 川波朋子

【登場人物紹介】

:東京都内の私立中高一貫女子高出身。過去にはスクールFCで小中学生の英語も教えていた、花まるの先生。ふと、ニュースを見て家族で「これってこういうことだよね」と話せるようになったのも、Sが中学受験の勉強をしたおかげだな、と気づく。佳境のこの時期、勉強面はどうしても気になっちゃったときだけ、ほんのり口を出すようにしている(加減が難しい…)。

:子煩悩パパ。たまにSと一緒にお風呂に入って、男同士のバカ話をしている模様。Sが物語文の内容に共感できず、まったく点がとれないのを見ても、「小学生男子に、女子の間のいざこざや感情なんて、読み取れるわけないじゃん」とあっさりしたもの。本番で女の子が主人公の物語文が出ませんように…と切に祈る。

長男 S:4歳から生粋の花まるっ子として過ごす。国語の過去問を解いていて、時折「この論説文、おもしろいんだよ」と教えてくれるようになったことも、成長の一端。物事の新たな見方や知識をインストールする「学び」が「おもしろい」と思える感性が、Sのなかに育っていることが喜ばしい。

次男Y:お調子者の保育園児。夕飯時は「納豆いやー」とわめくが、「一緒にお兄ちゃんを応援しよう。ネバネバは身体にいいの!」と主張する私に、ムリヤリ食べさせられている。

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