その10 最後まで夫婦喧嘩… (6年生2月)

その10 最後まで夫婦喧嘩…   (6年生2月)

 2月1日朝、4時半に目が覚めて寝られなくなる。夢見が悪い。海外旅行をするのに、パスポートと財布はあるものの、洋服を入れたカバンがなく、空港の税関で冷や汗をかいて右往左往するという夢。なんてこった。熱い紅茶を飲んで、夢の残滓を振り払う。
 いつも通り起きてきたSは計算と漢字のルーティンをこなし、いつも通り朝ごはんを食べた。早めに2人で家を出る。もう私の背丈は越したくせに、駅までの道すがら、縁石に乗って少しでも高いところを歩こうとするS。低学年のときから変わらない姿に気が抜ける。
 最寄り駅で電車に乗ろうとすると、小学校の担任の先生にばったり出会う。なんという偶然。「頑張ってな」という声に見送られて、電車に乗り込む。都内の2月1日の朝、確かに親子連れが多い。受験校の敷地に入る前に、FCの先生方の入試応援Zoomにつなぎ、声をかけてもらう。
「FCの先生だけじゃなくて、サマーで会った先生も声をかけてくれたよ」
とSは嬉しそう。帰りには、豚骨魚介ラーメンを食べ、士気を上げる。1月校で行きたいところに1つ受かったので、2月1日の午後入試はパス。明日に備えて、寝る直前まで社会などの暗記項目を見直す。

 2月2日朝、持ち物を再チェックしていたときに、不穏な末尾「794」の受験票の、文字がややかすれているのが気になった。夫に
「これ、もう一度プリンターで出さない?」
と言ったとたん
「オレはこれでいいと思っている!」
と喧嘩腰。その後、売り言葉に買い言葉が止まらない。なんで2日の朝にこんな喧嘩になるの…。我々、親として最低では、と冷静な自分はコメントしているが、吹き出てくる感情に引きずられてしばし、小競り合い。受験票の件は読めないほどではないので、しぶしぶ自分の主張を抑えることにした。この影響で2日の結果がよくなかったら、と落ち込む…。
 2日の受験校にSを送り届け、今日もカフェで仕事。さて集中していたらあっという間に、1日受験校の合否が出る時間に。結果は…不合格。信じられない思いで、何度もID/Passを打ち込み、合否を確かめてしまう…。夫からは「残念でした、次に期待」と短いLINEが。「そうだね」と返しつつ、「もう少しあの単元をやっていれば…」といまさらどうしようもない、たらればや、合格していたらあったかもしれない未来をグルグル考えてしまう。思いのほかショックを受けている自分にショックだ。迎えの時間まで、仕事に逃避する。
 Sには事前に、3日までの受験が全部終わってから、1日と2日の結果を伝えて4日以降の動きを考えようね、と伝えていた。本人は、FCの先生に最後にもらった歴史の一問一答からめっちゃ出題された、と興奮して帰ってきた。暗い顔は見せないようにする。
 夜、2日の受験校の合否発表を見る。夫はダメだったら態度に出ちゃいそうとのことだったので、一人でポチる。番号を一覧表から探す形式で、あれ、見当たらない…。え、まさか…。もう一度、深呼吸をして見直す。末尾「794」の受験番号が…あ、あった…! うれし涙のほうになってよかったぁ…。問題を解いているSを横目に、一人でゆっくりお風呂に入って脱力。第一希望群の学校に受かった喜びと安心がじわじわ込み上げてくる。

 2月3日、都立入試の日。あわよくばの記念受験の気持ちでSと夫を見送る。お昼ごはんはSの大好きなピザ。1日・2日の結果を伝えると、
「もう受けなくていいんだ、終わった――――!」
と雄たけび。FCの先生に結果報告をしてねぎらいをもらうやいなや、半年ほど我慢していた新作ゲームに飛びつくS。ハイハイ、もう好きなだけやるといいさ。

 都立の発表は1週間ほど先なので、これにて受験終了。夫婦喧嘩ではじまり、夫婦喧嘩で終わった気がするわが家の中学受験…。なんともしょっぱい気持ちになるが、これはもう、流行りの(?)ケンカップルですと宣言するしかないだろうか…。張りつめていた糸がゆるやかにとけていった、わが子の中学受験最終日。


花まる学習会 川波朋子

【登場人物紹介】

:東京都内の私立中高一貫女子高出身。2日の夜のお風呂あがり、私がニコニコしているように見えたらしく、あぁ受かったのかなとSは思ったとのこと。女優にはなりきれなかった残念な母。

:地方の公立校出身。2日は落ちたり受かったり、アドレナリンが出すぎたからか、その夜はあまり寝られなかったとのこと。意外と繊細!?

長男 S:のんびりマイペース。2月受験校は、最後までどのプランにするか親は揺れたが、「やらないで後悔するより、やったほうがいいじゃん」というS自身の言葉で、全落ちの可能性もありつつ、上位プランに挑戦することになった。

次男Y:お調子者の保育園児。新年のお願いごとは、「6年生になりますように」。いますぐ、Sに身長も中身も追いつきたいよう。「Yが6年生になる頃には、Sはもう大人かな…」とコメントすると、「うそだぁ…」と涙目。

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