「合言葉エーミール!」
(エーリヒ・ケストナー作/池田香代子訳『エーミールと探偵たち』岩波少年文庫より)
男の子たちがさけんだ。声はニコルスブルク広場をゆるがせて、通りすぎる人たちは目を丸くした。
エーミールは、お金を盗まれるなんて、なんてラッキーだったんだ、と思った。
ドイツを代表する児童文学作家、ケストナーによる『エーミールと探偵たち』は、初版以来世界中の子どもたちの心をつかみ、幾度となく映画化、舞台化もされたロングセラーです。
舞台は1900年代の大都会ベルリン。離れて暮らすおばあちゃんにお金を届けるために一人で汽車に乗った少年エーミールは、怪しい「山高帽の男」にお金を盗まれてしまいます。エーミールは地元の顔役の少年グスタフや「教授」というあだ名のテーオドルなど、ベルリンの町で出会った少年たちと協力して犯人を探し出そうとしますが……。
さながら「少年探偵団のベルリン版」とでも言うべき個性的な子どもたちの活躍と、犯人との攻防、最後の大団円など、とにかく心躍る読書体験ができること間違いなしの快作です。
そして、無事に犯人をつかまえたエーミールたちがごほうびとして食べるのが、ドイツに古くから伝わるサクランボケーキです。
実は、物語のなかでこのケーキを少年たちにご馳走するのは、なんと作者であるケストナー本人! 作者自身が物語に出るなど、なかなか見られないような遊び心たっぷりの演出です。
「ぼくはケストナー」
新聞記者は言って、ふたりは握手した。(中略)
「なあ、エーミール」ケストナーさんが言った。「ちょっと、うちの編集部に来ないか? その前に、どっかでホイップクリームてんこもりのケーキを食べようよ」(中略)
ケストナーさんは、エーミールとグスタフと教授を車に積みこんで、まずはケーキ屋に行った。
日本ではケーキといえばいちごのショートケーキが定番ですが、ドイツでは特に南部でとれるさくらんぼをふんだんに使ったケーキが有名。さらに、ケーキにはたっぷりのホイップクリームをかけるのが一般的。大手柄を立てたエーミールたちも喜んで食べます。
ケーキ屋に着くと、男の子たちははしゃいだ。ホイップクリームてんこもりのサクランボケーキを食べながら、思いつくままに話をした。ニコルスブルク広場の作戦会議のこと、タクシーのカーチェイスのこと、ホテルで過ごした夜のこと、エレベーター・ボーイに化けたグスタフのこと、銀行でのさわぎのこと。
最後に、ケストナーさんが言った。
「きみたちは、ほんとうにたいしたやつらだよ」
そこで、三人は、胸をはりたい気分になって、もうひとつ、ケーキを食べた。
これから旬を迎えるさくらんぼ。そのまま食べてももちろんおいしいですが、「ホイップクリームてんこもり」のケーキを作って、物語の世界を再現してみても楽しいですよ!
スクールFC 平沼 純
【レシピ】 チェリーのクラフティ
アメリカンチェリー…8~10粒
卵……………………1個
プレーンヨーグルト…100g
牛乳…………………30g
きび砂糖……………50g
片栗粉………………10g
①アメリカンチェリーは洗ってヘタを取り、種に沿って縦一周ナイフで切り込みを入れ半分に分ける。片方に残った種は取り除く。
②ボウルに、卵を割りほぐし、プレーンヨーグルトと牛乳を加えてよく混ぜる。きび砂糖と片栗粉も加えてダマが残らないように丁寧にしっかりと混ぜ合わせる。
③グラタン皿など耐熱皿にバター(分量外)を薄く塗り、②を注ぎ入れ、①を満遍なく散らす。
④180℃に予熱したオーブンで15~20分焼く。
⑤焼き上がりに好みで粉糖を振る。
* 温かいままでも、粗熱を取って冷蔵庫で冷やしても、どちらもおいしいですよ。
【レシピ・写真提供】
料理家 江口 恵子(natural food cooking)