現代日本を代表するファンタジー作家、上橋菜穂子氏。作家であるとともに、文化人類学者としてオーストラリアの先住民族アボリジニを研究しているという、異色の経歴の持ち主です。その幅広い分野の知識を織り交ぜた数々の作品は世界的に読まれていて、2014年には、その選考基準の高さから「児童文学のノーベル賞」とも呼ばれる国際アンデルセン賞の作家賞を受賞しました(2023年現在、同賞を受賞した日本人は1994年のまど・みちお氏、2018年の角野栄子氏のみです)。
古き時代の日本を舞台にした『狐笛のかなた』、人と架空の獣の交流を描いた『獣の奏者』、謎の病をテーマにしてコロナ禍でも広く読まれた『鹿の王』……。上橋作品のどれもが、人類の運命、異文化とのつながり、生命の神秘といった深遠なテーマを壮大なスケールで描いていて、読めば自分のなかに、はるかな世界へと思いを馳せられる「まなざし」を得たかのような気持ちになれます。
『精霊の守り人』に始まる通称「守り人」シリーズは、そんな上橋作品の中でも特に人気のある物語。
舞台は架空の国・新ヨゴ。主人公の女用心棒バルサは、目には見えない世界に住む精霊の卵を宿してしまった皇子・チャグムを救うため、追手の刺客や異世界の怪物から逃れながら冒険をくり広げます。先住民族の伝承や建国神話の秘密など、文化人類学者ならではの知見も織り交ぜ、ラストに至るまで一気に読めること請け合いの異世界ファンタジーです。
そんな「守り人」シリーズですが、実はところどころに描かれる、登場人物たちの食事のシーンが非常に印象的。上橋氏は物語のリアルさを高めるために、物語の細部――登場人物たちの住居や着ている物、食べる物――の描写には徹底してこだわったとのこと。
なかでも、バルサとチャグムが追手から逃れる際、「頼まれ屋」のトーヤたちに買ってきてもらって食べる「ノギ屋の鳥飯」は実においしそうです。
「……さて、じゃあ、昼ご飯をいただくかね」
(上橋菜穂子『精霊の守り人』新潮文庫より)
トーヤたちが買ってきてくれたのは、鳥飯だった。ジャイという辛い実の粉とナライという果実の甘い果肉をまぶしてつけこんだ鳥肉を、こんがりと焼き、ぶつ切りにして飯にまぶしたもので、これもじつにおいしかった。トーヤたちは、竹の筒に入った、まだ湯気がたっている熱いお茶や、果物なども買ってきていた。
「守り人」シリーズには、今回紹介した「ノギ屋の弁当風鳥飯」のほかにも、バルサの友人タンダが作る「山菜鍋」、架空のパンである「バム」、宮廷の宴で出される「鳥のから揚げ宮廷風」など、魅力的な料理が多く描かれています。それらを再現したレシピは、『バルサの食卓』(新潮文庫)という本に書かれてありますので、もしご興味があればご一読をおすすめします!
スクールFC 平沼 純
【レシピ】とり飯
鶏もも肉……2枚
りんご……1/2個
玉ねぎ……1/4個
A:酒、みりん、醤油……各 大さじ1
醤油……大さじ2
酒……大さじ1
ごはん、レタス……各 適量
*粉山椒……好みで適量(子どもが食べる場合は、ごく少量かなしでも。大人が食べる前に振ると、風味が増しておいしいです。)
①鶏もも肉に皮面からフォークを数か所刺す。
②玉ねぎとりんごはすりおろしてAの調味料とよく混ぜ、①の鶏肉を15分ほど漬け込む。
③フライパンをしっかりと熱し、植物油大さじ1をしく。②の鶏肉を皮面から入れ、ヘラやトングなどで押さえながら強めの中火で全体に軽く焦げめがつくまで焼き裏返す。裏面も同様にして焼いたら、酒をまわしかけ蓋をして弱火にして15分蒸し焼きにする。
④蓋を取り、醤油をまわし入れ水分を飛ばしながら2~3分煮詰めて全体にタレを絡める。
⑤器またはお弁当箱にごはんを入れ、千切りにしたレタスを敷く。食べやすい大きさに切った鶏肉を盛りつけ、タレをたっぷりとかける。好みで、粉山椒を振る。
【レシピ・写真提供】
料理家 江口 恵子(natural food cooking)