突然ですが、クイズです。毎年いまの時期になると至るところで飾られるクリスマスツリーは、きまってモミの木など、冬でも緑色の葉をつける常緑樹です。それは一体、なぜでしょうか?
答えは、「冬でも緑色の常緑樹は、《永遠の生命》の象徴としてふさわしいから」です。実は、クリスマスの起原は古代ヨーロッパにおける原始宗教、ミトラ教の「冬至祭」とされています。かつて、冬はいまよりずっと寒く、夜になるといまよりもっと深い闇が広がっていました。そんな時代の冬は、生きとし生けるものにとって文字通り「死をもたらす季節」。だからこそ当時の人々は、一年で夜が最も長い冬至の日の夜に盛大に火を燃やし、一年中枯れることのない常緑樹を「生命の象徴」として飾ることで、「早く暖かな春がやってくるように」と祈りをささげていました。つまり、クリスマスツリーとは「世界のすべての生命に、永遠の平和が訪れるように」という、古の人々の願いが込められたものだったのです。
北欧の国フィンランドを代表する「ムーミン」シリーズの一冊、『ムーミン谷の冬』には、そんなかつての冬至祭の風景を思わせる場面が描かれていて興味深いです。
ムーミン一族は冬になると冬眠しますが、主人公のムーミントロールはひょんなことから目覚めてしまい、生まれて初めて一人だけで外の世界への冒険にくり出します。すると、いままで単純な「死の世界」だと思っていた冬にも、実に豊かな生命の営みがあったのです。冬の住人たちが、凍てつく夜空に向かって盛大に燃やすかがり火。闇のなかから見た光のまぶしさ、「死」から見た「生」の躍動に触れて、ムーミントロールの世界はどんどん広がっていきます。
そんな冬の住人たちのなかでひときわ存在感を放つのが、ことあるごとにムーミントロールを導くトィーティッキ(おしゃまさん)です。ムーミントロールが自分で答えを見つけられるよう的確な助言を与え、しかしつかず離れずの距離感を保つ、魅力的なキャラクター。
「わたし、北風の国のオーロラ(北極星)のことを考えてたのよ。あれがほんとにあるのか、あるように見えるだけなのか、あんた知ってる? ものごとってものは、みんな、とてもあいまいなものよ。まさにそのことが、わたしを安心させるんだけれどもね。」
(トーベ・ヤンソン 原作・絵/山室静 訳『ムーミン谷の冬』講談社文庫より)
そんな物事の二面性について説きながら、彼女が小屋のなかでムーミントロールにふるまうのが、温かい「魚のスープ」です。
物語のなかにはこの魚が何を指すのかは記されていませんが、北欧を代表する魚と言えば、やはりサーモン。濃厚なスープに、大きめに切られたサーモンがいくつも入っているサーモンスープは、フィンランドでは「ロヒケイット(Lohikeitto)」という名で親しまれている、伝統的な郷土料理です。
クリスマスと言えばローストチキンなどが定番料理ですが、このサーモンスープのような伝統料理で食卓を彩り、冬の世界、あるいは古の人々の思いを想像するのもおすすめです。
スクールFC 平沼 純
【レシピ】サーモンと野菜のスープ
生鮭 または 生サーモン……300g
玉ねぎ……1/4個
人参……5cm
じゃがいも……1個
オリーブオイル……大さじ1
塩……小さじ1/2
生のディルの葉……みじん切りで小さじ1程度と飾り用1枚
①鮭は一口サイズのそぎ切りにし、塩、胡椒少々(分量外)を振っておく。
②玉ねぎは皮を剥いて2cm角、人参とじゃがいもは皮を剥いて1cm角に切る。
③鍋にオリーブオイルを入れて温め、②の野菜をしんなるするまで3分ほど炒める。水400㏄と塩を加え、沸騰したら①を加える。7~8分煮たら火を止め、刻んだディルを加える。
④器に盛りつけ、大きめのディルの葉を飾る。
【レシピ・写真提供】
料理家 江口 恵子(natural food cooking)