【花まるコラム】『人生に花まるを』紙田笑夢

【花まるコラム】『人生に花まるを』紙田笑夢

 「手がおばけになっているよ」「つま先がグラグラしている…足元に集中!」「ほら、口が開いている」この3つの言葉は、私が小学生のときに通っていたバレエ教室で、よく言われていたベスト3です。「手がおばけ」というのは、指先まで力が入っておらずフラフラしている状態のこと。先生が「手が」と言うと指先までピシッ!と伸ばさなければと思い、足元のバランスがグラグラに。バランスを崩すと先生から「足元に集中!」と言われ、指先も伸ばしバランスよく立とうと思い集中すると、表情が疎かになり口がポカーンと開いてしまうというのが当時のあるあるでした。口が開いていることも良くないけれど、私も頑張っているのになぁ…と子どもながらにもどかしさを感じていました。
 しかし、本当はできるのにもったいない!何度も言っているのに…という、先生には先生のもどかしさがあったのだと、同じ立場になってから気がつきました。見守る側と見守られる側、どちらも経験したことで、一方がもどかしさを感じているときにいは、もう一方にももどかしさがあるのだと知りました。


 「いっぱい花まるがついちゃったよ…!」「どうしよう…花まるをつけたい文字がたくさんある…!」
 これは「あさがお」(書き写し教材)の時間での1コマです。子どもたちが書き写しを終えると講師が花まるをつけるのですが、私の授業では、子どもたちに対してお気に入りの文字やよく書けたと思う文字に花まるをつけよう!という時間を定期的にとっています。最初はこのような言葉はあまり出てきませんでした。
 初めて自分の書いた文字に花まるをつけたときのことです。みんなの前で考えを発表することが大好きなAちゃんは「よ~し、花まるをつけるぞ!」と勢いよく赤鉛筆を握りました。しかし、自分の書いた文字をよく見て「ハッ!…先生、花まるをつけられる字がありません…」としょぼんと肩を落としました。自分で花まるをつけようとすると、どの文字もいまいちに見えたそうです。こういった様子を見せたのは、Aちゃんだけではありませんでした。花まるをつけたとしても、首をかしげながら「強いていうならば…」とゆっくり一つ書けるかどうか。
 そのとき、子どもたちに「どんな小さなことでもいいんだよ!」「自分がどんなことを考えながら文字を書いたか思い出して、頑張ったなぁと思ったら、花まるをして自分を褒めよう!」と伝えました。すると子どもたちも「じゃあ、これはまだ習っていない漢字だけれど、よく見て真似っこしたから花まるだね!」「これ、僕は上手く書けたと思っているから花まる!」と、少しずつ花まるが増えていきました。いまとなっては自分で花まるをつける時間になると「よしっ!」と腕まくりをする子、ニヤリとしたり顔な子など、どの子も意気揚々と花まるをつけています。

 子どもたちにとって、自分で自分の評価をするという経験は少ないもの。お手本と比べると、自分の文字はイマイチに見えてしまいます。しかし、子どもなりに「ここのハネをがんばった!」「『ね』のくるっと回るところ、いつもより綺麗にしようと思いながら書いた」など、自分だけが知っている小さな頑張りがあります。人に褒められることだけに価値があるわけではありません。誰もわからないし気づいていないかもしれないけれど確かに頑張った、その頑張りを自分で認められる人になってほしい。そのような想いで、自分に花まるをあげる時間をとっています。

花まる学習会  紙田笑夢(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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