【花まるコラム】『たった一言の力』草替美柚

【花まるコラム】『たった一言の力』草替美柚

 「本日も○○線をご利用いただき、ありがとうございました。素敵な日曜日をお過ごしください」

 ある日曜日の朝、電車に乗っているとこのようなアナウンスが流れてきました。いつもはいまどの駅なのかを知るためにしか聞かない電車のアナウンスに、朝から背中を押してもらったような、そんな感覚を味わいました。毎日どこかで誰かとする挨拶。何気ない会話。そんな普段の会話に、相手を思う、認める言葉が一言添えられるだけで気持ちが前向きになる経験が、子どもたちとのかかわりのなかにもありました。

 先日、いつも通り事務所で授業の準備をし、教室に向かおうとエレベーターを待っていたときのことです。
「わ!」
突然うしろから大きな声が飛んできました。びっくりして振り返ると、いつも脅かしてくる、エレメンタリースクールに通ういたずらっ子のMくんがニヤニヤしながら立っていました。またやられた! と言いつつも、内心はそうやって私に構ってくるMくんがかわいくて仕方ありません。そのまま他愛のない会話を楽しんでいると、すぐにエレベーターがやってきました。
「それじゃあ行ってくるね」
そう言ってエレベーターに乗ると、閉まりかけるドアの隙間から
「ばいば~い! 頑張ってね!」
という言葉が聞こえてきました。その瞬間、フッと心が軽くなるような、明るくなるような感覚がありました。たった一言、Mくんからの「頑張ってね」という言葉が、私の心にダイレクトに響いてきたのです。その言葉の力で、さらに「よし、今日も頑張るぞ!」とやる気がみなぎりました。

 このような経験は、幼い頃にもありました。「行ってきます」と言って家を出るとき、「いってらっしゃい」だけでなく「気をつけてね」「今日も頑張って」と言われた日には、いつもより明るい気持ちで家を出ることができました。帰ったときに「おかえり」「頑張ったね」と言われると、嬉しい気持ちで一日を終えられます。そういった何気ない一言には、相手を鼓舞する力があるのです。

 教室では、子どもたちにたくさんの声かけをしています。宿題を確認したとき「今週も頑張ったね」と言うと、次の週は「見て!」と、宿題を見てもらうことを楽しみにするようになった子がいました。たこマン(お題となるイラスト見て、二コマ目のおもしろいオチを自由に考えて発表する教材)でなかなか勇気を出せず発表できなかった子がみんなの前で発表したとき、近くに行って「ナイス発表!」と声をかけると、嬉しそうに笑って次の週も発表することができた子もいました。そういった一言によって、勉強に対する姿勢や気持ちが前向きに変化し、それが積み重なることで「勉強って楽しい!」という土台ができあがっていくのです。自信や勉強への意欲が高まるよう、これからも前向きな言葉をたくさん届けていきます。一言一言に、その子を思う気持ちを込めて。

花まる学習会 草替美柚(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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