つい先週のことです。高学年クラスのAくんが授業終わりに教室を出てすぐ、すっかり暗くなった空を見上げて
「お、きれい」
とつぶやきました。「なにが?」と私が聞くと、「ほら、月だよ」と。彼の言う通り、夜空に少し欠けた月がはっきりと輝いていました。このような子どもたちの発見の瞬間を目の当たりにすると、その子がどんな感性をもっているのか、何に関心があるのかが垣間見えます。子どものころの興味関心は、今後のその子の価値観の形成にもつながっていきます。
花まる学習会の授業で子どもたちのそれがよく見えるのが、作文です。花まるでは毎年11月に「作文コンテスト」という小学生コースの特別授業があります。身のまわりで起きたできごとや興味関心のあるものに対して、自らの想いを綴ります。今年の作文コンテストも、子どもたちの心のなかを覗かせてもらったのではと思うほど、素直で個性豊かな作品であふれていました。
私は、作文コンテストの1週間ほど前から、子どもたちに「普段みんなが不思議に思っていることをテーマにしてもいいし、好きなことや嫌いなことについて語ってもいいよ」と話していました。コンテスト当日には、一人の例外もなく全員が書きたいことを自分で決めて、意気揚々と筆を走らせていました。自分の書きたいことに迷いがない、これも一つ素敵なことですね。
「もしも」の世界に想いを馳せる子、友達の言動を自分なりに分析してみる子、体感したできごとを細かく記す子など、書き上げた作品はまさに十人十色です。
みんなの作文に、価値観の原石のようなものが見えました。オリジナリティにあふれ、私にはない感性で語りかけてきます。読んでいておもしろいのです。「この人の話って聞いていてワクワクするな」「あの人の感性っておもしろい」そう思わせられる人は魅力的です。
作文は、言語化力を鍛えるコンテンツでもあります。自分の好きなことに対して「なぜ」好きなのか、いやなことに対して「何が」いやなのか、不思議に感じていることには「どうして」そう感じるのか、などの「?」の部分を、言葉というツールを使って表現します。どう表そうかと考えをめぐらせることで、自分なりの答え(「わからない」もふくめ)や根拠を導き出すことができます。そして、その思考と言語化を積み重ねていくことで形成されるのが、価値観です。
さらに、言語化の作業のなかでは、情報や気持ちを整理することができ、さまざまな気づきを得られます。目に見えない幸せを見つけること、人々の想いに気づくこと、この心の動きこそが人生を豊かにする力なのでは、と私は考えています。
月を見て「きれい」と言った彼が書く作文は、いつもユニークで読んだ人がクスっとしてしまうような遊び心のあるものです。子どもたちには、心が動く経験をたくさん積み、それぞれの価値観を磨き、幸せをたくさん感じられる人生を歩んでいってほしいと思ってます。
花まる学習会 浦岡翠(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。