【花まるコラム】『お風呂場の実験』伊藤健吾

【花まるコラム】『お風呂場の実験』伊藤健吾

「子どもは遊びの天才だ」とよく言われますが、その才能は子どもが学び続けていくうえで大切なエネルギーになります。特にその様子が見られるのは、年中クラスの授業です。年中クラスでは毎週、思考実験で、さまざまなテーマで作品づくりや実験を行います。そこで大切なのは、自分自身の頭で考え、体験することです。“体験”について事前に“予想”することで、その実体験がより具体的なイメージとして結びつくようになります。

 思考実験には『浮力』というテーマの回があります。文房具やペットボトル、ピンポン玉など、身の回りにあるものを水のなかに入れるとどうなるのか試します。「浮く」か「沈む」かを予想し、実際にその場で結果を確かめます。「沈む」場合はそっと入れてみるだけで結果がわかりますが、子どもたちが一番楽しそうなのはモノが「浮く」ときです。
 ぎゅっぎゅぎゅっ……スポッ!
 空のペットボトルなどは子どもたち数人がかりで上から押したとしても、またすぐに浮き上がろうとしてきます。ただ、その押し返される感覚が子どもたちの好奇心をかき立てるようで、何度も楽しそうにいろいろなモノを沈めようとしていました。

 当時、年中クラスのRくんもその一人でした。Rくんはお家でも、身近なものが浮くのかどうか実験してみたようです。かわいい事件が起きたのは、その翌週のことです。その日の授業は『風船』を使って60分間さまざまな遊びをする回でした。Rくんは持ち帰った風船を『浮力』のときと同じように、おうちの湯舟に沈める実験をしたのです。すると……。
 ぎゅっぎゅぎゅっ……パァン!!
 まったく沈む気配のない風船は、Rくんの力に耐えきれずに割れてしまったのです。予想を裏切られた感覚はなかなか忘れられない体験となったことでしょう。

 かくいう私も、小学生時代にお風呂場でいろいろな遊びをしていました。タオルや桶を使い、水や空気の実験をしていた思い出があります。一時期マイブームになっていたのは、 “桶回し”という遊びです。
 まず湯舟に桶を浮かべます。それを勢いよく、くるくると回します。水の上は抵抗がないので、子どもの力でもすぐにそこそこの速さになります。スピードが上がりきったところで、ピタッと桶を静止させます。そして、両手を桶から放します。すると、どうでしょう、桶がまたゆっくりと回りはじめるのです。ぐるぐる回していた桶がそのまま回り続けるのはすぐに理解できました。でも、一度止めたはずの桶がまた回りはじめる様子は、まるで魔法のようでした。その力の正体を見破ろうと、何度も桶を回して遊んでいたのをいまでも覚えています。
「自分は、とんでもない法則を発見してしまった…!」
とワクワクした気持ちになりました。気持ちだけはまるで発明家です。
 大人になってその正体を調べてみると、自分のなかでその憶測ができました。重しとして桶のなかに入れていた水が回り続け、一度止めたあともその水の流れに引っ張られて回り続けていたようです(物理学の世界では“流体の粘性”というそうです)。子どものときにはそれがどういう現象かまではわかりませんでしたが、自分の手で新しい何かを発見したというその経験は、一生ものの宝物になりました。

 今回例に挙げたのはお風呂場でのことでしたが、子どもたちが実験(遊び)をする場所は公園や道端などさまざまです。子どもたちは日々、実験をするなかでいろいろなことを学んでいきます。大人から教わった言葉をそのまま吸収するだけではなく、実際に自分の手でやってみることで、初めて知識と実体験がリンクするのです。

 子どもたちが試行錯誤してたくさんの経験をするために私たち大人ができることは、自由にのびのびと遊べる(学べる)時間・空間を作ってあげることです。今後も子どもたちが自然と学びに向き合えるよう、子どもたちの好奇心を尊重して指導してまいります。

花まる学習会 伊藤健吾(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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