【花まるコラム】『夕日に照らされた背番号30』箕浦健治

【花まるコラム】『夕日に照らされた背番号30』箕浦健治

 その日は透き通るような青空が空一面に広がり、身体中を優しく覆うように心地よい風が吹いていました。

 日課となっているランニング中に、少し休もうと思い、グランド近くのベンチに腰をかけていました。夕方が近いということもあり、子どもたちが家に帰る姿も増えてきました。

 しばらく空を見上げて雲の流れをぼんやり目で追っていたときのことです。遠くのほうから子どもの興奮した声が聞こえてきました。

「今日は本気じゃなかったんだよ!」
「今度は絶対にホームラン打つから!」

 それは、お母さんと手をつないで興奮しながら話をしている園児か小学1年生ぐらいの男の子の声でした。興奮している様子をお母さんは満面の笑みで見つめています。
「早く次の試合来ないかな~!」
と言いながら、私の前を通り過ぎていきました。その瞬間、なんとも言えない温かい気持ちになりました。

 試合が終わった後なのに、少年のユニフォームは真っ白で汚れがまったくありませんでした。おそらく、まだ試合に出ることができないのだと思います。しかし、お母さんは少年の話を「うん、うん」と優しい笑顔で聞いています。

 私の前を通り過ぎた親子をきれいな夕焼けが照らしていました。夕焼けに照らされた少年の背番号30番がとても美しく見えました。

「平穏無事」

この言葉が頭に浮かんできました。
~おだやかでなに一つ変わったことが起こらないようす~

 どうしても大きな変化を望んでしまいますが、いつも通りが一番だということを改めて感じることができました。

 教室でも、子どもたちに多くを望むのではなく、「いつも通りでいいよ」と声をかけてあげたくなりました。あの少年のお母さんのような笑顔で「うん、うん」とどんなことも聞いてあげたい気持ちでいっぱいになりました。子どもたちと早く会いたいと思いながら、夕日に向かって走り出しました。

花まる学習会 箕浦健治(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事