私は今年の年末年始に、花まる野外体験の雪国スクール「花まるスキー王国」に参加しました。スキー初心者の子たちが参加するベーシックコース。ハの字でピタッと止まれる子もいれば、スキー板を履いて立つのがやっと、という子もいました。1日目は麓で止まる練習などをして、慣れてきた子からリフトに乗って山の上へ。2日目には、多くの子がリフトに乗って高いところから滑り下りていました。
2年生のIくんは、2日目の午前中に初めてリフトに乗りました。一度滑り降りてくると
「疲れたー。脚が痛―い」
と言って、休憩スペースに座り込みます。そのまま、数十分休んでいたので、ほかの子たちがリフトに乗るタイミングで
「そろそろIも行く?」
と聞くと、
「僕は…いいや。まだ脚が痛いんだよねえ」
と言って、動こうとしませんでした。そこで、休憩しているIくんと話をしました。山の上からの景色について尋ねると、
「小屋が見えたよ」
「人がすごく小さく見えるんだよ」
と言い、だんだん楽しくなってきたのか、表情が明るくなってきました。そこで私が
「私はここにいなくちゃいけないから、上には行けないんだ。だから、Iが代わりに見て教えてくれないかな? Iが滑り下りてくるのを楽しみに待っているからさ!」
と伝えました。するとIくんは
「それなら、わかったよ。行ってくる!」
と立ち上がりました。そして、堂々と滑り下りてきたIくん。楽しそうに、上から見えた景色を教えてくれます。次は休憩スペースに座り込むことなく、すぐにリフト乗り場へ向かいました。それどころか、一緒に滑ってきた子たちを
「ほら! 早く行こうよ!」
と急かしていたほど。Iくんのチームのリーダーは
「さっきまですぐに休みたがっていたのに。同じ子とは思えないね」
とほほ笑んでいました。
役割があるというのは、行動への大きなモチベーションになるのだな、と実感した瞬間でした。ただ、Iくんの原動力になったのは、それだけではないでしょう。実際に行動してみると楽しくなる、ということは多くあります。一番エネルギーが要るのは、はじめの一歩。その一歩さえ踏み出せれば、自分の力でどんどん進んでいきます。野外体験でも、教室でも、頑張る子どもたちの一歩を踏み出す背中を押す存在でありたいと感じました。
ちなみに私はこの日、自分の役割が落ち着いたタイミングで、生まれて初めてスキー板を履いて、一度だけ山の上から滑りました。想像以上に脚の力を使い、1回でヘトヘトに…。自分でやってみたことで、すぐに休みたがる子どもたちにも優しくなれる気がしました。
花まる学習会 鈴木弥生(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。