【花まるコラム】『真剣』堀江健太郎

【花まるコラム】『真剣』堀江健太郎

 今年の夏、私はサマースクールでサムライの国に軍師として常駐していました。そこで、数多くのドラマが生まれました。 

 3泊4日のサムライの国に参加した4年生Yくん。坊主頭に笑顔がよく似合います。「頭のさわり心地がいいね!」と撫でると、「そうでしょ!」とその場でくるくると回り始める、そんなユーモアあふれる男の子でした。

 今回のサムライ合戦には“子ども大将”という制度が導入されました。普段は宿の責任者が大将の役目を担っており、その大将の紙風船を割られてしまうとほかの全員が生き残っていても負けになってしまう、責任重大な立場。それを子どもに任せるというものです。1日目の子ども大将戦。募集をかけると勇気を持って手を挙げる子どもたち。そのなかにYくんもいて、“目力がいい”という理由で抜擢されました。
 Yくんを大将に据えた合戦は熾烈を極め、どこの宿も敵の大将まで一歩届かず。もつれにもつれ、決着は大将同士の一騎打ちで決めることに。3宿の代表が合戦場の中央に集います。大将の肩には50人の仲間たちの思いがのしかかります。その重圧に、Yくんは涙を見せました。
「…こわい。こわいよ」
「そうだよな。でも、Yくんがやりたいようにやればいいんだ。思いっきりぶつかってくればいい。負けたって責める人は一人もいないから」
 それでも涙の止まらないYくん。
「こわいよな。やめるか?」と声をかけると、「……行くよ。行きたい」と涙を
袖でぬぐいました。やはりいい目をしています。
 大将戦では一歩も引かず果敢に攻め立てるYくん。さっきまでの弱気をまったく感じさせません。それでも最初に敗れたのはYくんでした。今度は先ほどとは違う涙がこみ上げてきます。
「こわかったよな! すごいよ!」
「おれだったらいけないよ」
「がんばってた! よくやったよ」
自陣に戻ると、50人の仲間たちが次々にYくんに声をかけます。その言葉にまた熱いものがこみ上げてくるYくん。その姿は宿で笑いを振りまく坊主頭の陽気な男の子ではなく、真剣に戦いぬいた一人のサムライでした。

 2日目には“天下一武道会”をおこないました。通常、サムライは宿泊する宿ごとに約50人が一つのチームとしてぶつかる大規模なものです。しかし天下一武道会は自分たちの宿のなかで1番強いサムライは誰かを決めるというもの。
 同じ宿に宿泊する子どもたちは少人数の班に分かれて活動するのですが、1班に7人いれば、その7人が戦って1番を決めます。その戦いを全班がおこない、最終的に各班の勝者同士で戦って宿のなかで最強のサムライを決めます。
「最初に負けた子は手持ち無沙汰になるかな…」私はそんなことを考えていましたが、そんな考えは子どもたちの熱に一蹴されます。さながら剣道の全国大会のような熱気と空気の重さでした。「ハァッ!」という声と「ブンッ」と刀が空気を切る音、そして「パンッ」と紙風船が破裂する音、「キュッキュ…ダン」という足音が体育館にこだましていました。
 そのなかでもやはりYくんには、鬼気迫るものがありました。班の代表を決める戦い。Yくんの刀捌きは神がかっていました。
 「キェエエエエエエエ」高らかに声をあげたYくんが刀を「ブンッ」と振ると、「パンッ」と紙風船の割れる音が響きます。それが3度続きました。驚愕すべきは無駄振りが一度もないこと。一度刀を振れば、一人を倒します。本来簡単に紙風船を割ることはできません。Yくんの目からは“二度と負けない”という強い気持ちを感じました。破竹の勢いで班代表を勝ち取っていました。

 「ここまで真剣になれるものか」と子どもたちの姿に驚かされました。Yくんをはじめ、誰しもが刀を手に持つと、相手と真剣に向き合っていました。頼れる親元を離れ、戦い、成長していきます。それが野外体験の魅力です。ぜひ雪国スクールにもお越しください。お待ちしております。

花まる学習会 堀江健太郎(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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