【おはなしのキッチン❾】『赤毛のアン』平沼純 2023年2月

【おはなしのキッチン❾】『赤毛のアン』平沼純 2023年2月

 20世紀のはじめ、当時ほぼ無名だったカナダ人女性作家、ルーシー・モード・モンゴメリ(1874~1942)によって書かれた一冊の小説が、世界中でベストセラーとなりました。原題は『Anne of Green Gables(グリーンゲイブルズのアン)』。1952年に村岡花子氏によって翻訳された邦題は、『赤毛のアン』。
 以来、カナダのプリンス・エドワード島に住む一人の想像力豊かな少女の物語は、時代や国境をこえて多くの人に愛され続けてきました。
 なぜ、カナダのごく小さな島を舞台にした物語が、ここまで多くの人々の心に響くのか? 脳科学者の茂木健一郎氏によると、その秘密の一つは、アンの持つ「セレンディピティ」の力にあるといいます(参考:茂木健一郎『「赤毛のアン」に学ぶ幸福になる方法』講談社)。
 セレンディピティとは、「思わぬ幸福に偶然出合う能力」のこと。物語のなかでアンが体験する数々の出来事には、望んでもいないのに予期せぬ形で訪れてくるものも多くあります。でもアンは、持ち前の想像力と前向きさでそれらを「よきこと」として受容し、乗りこえる過程でたくさんの、自分にとっての楽しみや幸福を見つけていきます。

「これから発見することがたくさんあるって、すてきだと思わない? もしなにもかも知っていることばかりだったら、半分もおもしろくないわ。そうしたら、ちっとも想像のよちがないんですものねえ。」
 
「あたしがクイーンを出てくるときには、自分のゆくてはまっすぐにのびた道のように思えたのよ。いつもさきまでずっと見とおせる気がしたの。
 ところがいま、道は曲がり角にきたのよ。曲がり角を曲がったさきになにがあるのかは、わからないの。でも、きっといちばんよいものにちがいないと思うの。」


(モンゴメリ作/村岡 花子訳『赤毛のアン』ポプラ社より)

 先行き不透明な現代社会に生きる私たちは、ともすると見えない未来に不安を感じがち。そんなときにこの物語をひも解けば、「明日はきっと明るい」と信じ続けるアンの数々の言葉に、きっと力をもらえることと思います。

 そんな『赤毛のアン』にはたくさんの魅力的な物語が描かれていますが、なかでもアンが「腹心の友」ダイアナと一緒に飲む「いちご水」はひときわ印象的です。
 原文では「ラズベリー・コーディアル(Raspberry Cordial)」とあり、木苺を使った濃いめの飲み物。炭酸水で割ったり、ヨーグルトやアイスに混ぜたりと、アレンジも自由自在。物語ではアンがダイアナに間違えてワインを飲ませてしまうシーンが印象的ですが、赤ワインで割ったら大人でも楽しめる味になりますよ。

平沼 純

 

『シリーズ・
赤毛のアン』
モンゴメリ 作
村岡 花子  訳
(ポプラ社)

 

【レシピ】 いちご水の素

いちご 1パック(250~300g)
グラニュー糖 苺の重量の80%
レモン汁 大さじ1

①いちごは洗ってヘタを取り、キッチンペーパーの上に並べてしっかりと水気を取る。
②アルコール消毒か煮沸消毒をした清潔な瓶に、いちごとグラニュー糖を交互に重ねていく。
③1日に1回、瓶の上下を返して水分を全体にいきわたらせるようにし、そのまま冷暗所で1週間ほどおく。
④シロップを小鍋に移して火にかけ、ひと煮たちさせたら火を止めてレモン汁を加える。
⑤清潔な瓶に移し入れ、粗熱を取って冷蔵庫で保存する。
<冷蔵庫で半年ほど保存可能>

*炭酸水、水で割って、プレーンヨーグルト、バニラアイス、パンケーキのシロップとして使ってもおいしいです。

【レシピ・写真提供】
料理家 江口 恵子(natural food cooking)

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