ロシアの昔話である『おだんごぱん』。「パンケーキ」や「かたやきパン」などという名前になっていることもありますが、パンが逃げ出すというお話は、ロシアだけでなくイギリスやノルウェーなどいろいろな国に語り継がれています。もともと昔話というものは、文字ではなく口伝えで語り継がれてきました。そのため、『おだんごぱん』以外にも、それぞれの国で似たような、でも少し違うようなお話はたくさんあるのです。
『おだんごぱん』を訳した瀬田貞二さんは、『ナルニア国物語』や『三びきのやぎのがらがらどん』など、多くのお話の翻訳もされています。子ども向けの本だけでなく、児童文学評論も書かれており、そのなかのひとつ『児童文学論』で以下のように書いています。
同種の物語が、地方により国によって、よくみれば「ところによって品変わる」というように、いろいろなちがいがあって、けっして「そっくり」というわけにはいきません。同じタンポポの種子でも、根づいた土地の条件によって、葉も花もすこしずつちがうものになる事情とくらべられるかもしれません。昔話の花は、お国ぶりによって青にも赤にも咲き変わります。
瀬田貞二著『児童文学論(上)・(下)瀬田貞二子どもの本評論集』福音館書店
ロシア版の『おだんごぱん』は、おじいさんとおばあさんのもとから逃げ出します。そして、いろいろな動物に出会うのです。動物たちは、おだんごぱんを食べようとするのですが、おだんごぱんは歌いながら逃げていきます。
ぼくは、てんかのおだんごぱん。ぼくは、こなばこ ごしごしかいて、あつめてとって、
ロシアの昔話・せたていじ訳・わきたかず絵『おだんごぱん』福音館書店
それに、クリームたっぷりまぜて、バターでやいて、それから、まどでひやされた。
瀬田さんが翻訳される絵本は、読んでいて心地よいリズムにあふれています。ついつい、節をつけて、歌いたくなってしまいますよね。どんどん逃げていくおだんごぱん。どこまで逃げ切れるのだろうかと、読みながらどきどきします。動物に出会い、歌い、逃げる、そしてまた出会い…と同じような展開がくり返されています。昔話でよく見られる手法なのですが、子どもたちはこのくり返しが大好きです。同じ展開がくり返されながらも、少しずつお話は進んでいき…最後は、想像以上にあっけない終わり方を迎えます。
出会う動物みんなが食べたがるほどおいしそうなパン、私も食べてみたいなあと思いながら読んでいた子どもの頃を思い出します。チョコペンなどで顔をかき、自分だけのオリジナルおだんごぱんを作るのも楽しそうですね。
花まる学習会 田畑敦子
『おだんごぱん』
せた ていじ 訳/わきた かず 絵 (福音館書店)
【レシピ】 おだんごパン
強力粉120g
ライ麦粉80g
塩4g
ドライイースト3g
きび砂糖10g
ぬるま湯130g
サワークリーム40g
溶かしバター30g
① ボウルに強力粉、ライ麦粉、塩を入れてよく混ぜる。
② 別のボウルにドライイーストときび砂糖を入れ、ぬるま湯を加えて丁寧に混ぜておく。
③ ①のボウルに②を加え、ゴムベラで粉気がなくなるまで混ぜたら、ボウルの中で2~3分こねる。サワークリームを加え、さらにこねたらひとまとめにし、ラップをして温かい場所に置くか、オーブンの発酵機能(35℃で40分)で一次発酵させる。
④ ③の生地が約2倍になったら、手で押さえてガス抜きをし、6等分に分割してきれいに丸め、ラップをかけて10分生地を休ませる。
⑤ ④の生地をもう一度軽く押さえてガスを抜き、丸め直したものを天板に並べてそのまま室温で20分、二次発酵させる。
⑥ 溶かしバターを表面に塗り、200℃に予熱したオーブンで13分焼き、焼き上がりにもう一度溶かしバターを塗る。
【レシピ・写真提供】
料理家 江口 恵子(natural food cooking)