作者オルコットの自伝的小説とも言われている、アメリカ児童文学の不朽の名作『若草物語』。優しく美しい長女メグ、活発で男勝りな次女ジョー、穏やかな三女ベス、甘えん坊の末っ子エイミー。19世紀後半のアメリカを舞台に繰り広げられる、魅力的なマーチ家の四人姉妹の物語は、時代と国境をこえて多くの人々の心をつかんできました。
物語の背景にあるのはアメリカ南北戦争(1861~1865年)で、姉妹たちの父親は黒人奴隷解放のため従軍牧師として出征しているという設定です。たくさんの人の命が失われ、日々の生活でもさまざまな不便がある過酷な時代…。しかしそんな時代のなかでも、思いやりや想像力を大切にして生きる彼女たちの姿からは、「物質的な豊かさは人の幸福を約束しない」という力強いメッセージを感じることができます。
「雲の向こうにはいつも青空が広がっている(There is always light behind the clouds.)」とは、作者オルコットの言葉。ぜひこの物語をひも解いて、困難な時代でも前向きに進むためのヒントを得ていただければと思います。
そんな『若草物語』にはたくさんの魅力的な食べ物が描かれますが、ひときわ印象的なのが、末っ子エイミーの学校で皆が食べるライムのピクルスです。
「いまは、もうなんといってもライムなの。みんな、授業中にも机の陰でしゃぶってるし、休み時間には鉛筆やビーズの指輪や紙人形や、ほかにもいろんなものと交換するの。好きな子がいたら、その子にライムをあげるの。大嫌いな子には、わざと目の前で食べてみせて、ひと口もあげないの。みんなでかわりばんこで、おごりっこするの。」
(ルイザ・メイ・オルコット作・海都洋子訳『若草物語』岩波書店より)
原文では「pickled limes」とあり、塩漬け、酢漬けなどの解釈が可能なライムのピクルス。とはいえ、少女たちが夢中になって食べている様子からも、砂糖などで甘く味付けしたピクルスであったのは間違いありません。
ピクルスは野菜に限らず、さまざまな果物でも作ることができます。ビタミン豊富で見た目にもあざやかなフルーツ・ピクルスで、さわやかな味と香りをお楽しみください。
ちなみに、ライムの原産地はインドからミャンマー、マレーシア一帯の熱帯地域。そのため、インドではいまでもピクルスのほか、「チャツネ」という名のペースト調味料などにもライムが使われているとのこと。こちらも、どんな味なのか気になるところです!
スクールFC 平沼純
『若草物語(上・下)』
ルイザ・メイ・オルコット 作/海都 洋子 訳 (岩波少年文庫)
【レシピ】 ライムのピクルス
ライム 3個
きび砂糖 ライムと同量(約250g)
りんご酢 50㏄
水 100㏄
塩小さじ 1/2
粒黒コショウ 10粒
カルダモン 2粒
月桂樹の葉 2枚
シナモンスティック 1本
クローブ 5粒
①ライムはきれいに洗って水けを切り、しっかり拭いたら、8等分のくし切りにする。重さを量り、同量のきび砂糖を用意する(今回は小さめのライム3個で245g)。
②小鍋にきび砂糖と水、塩、スパイス類を入れて火にかける。沸騰したら火を止めてりんご酢を加え、粗熱を取る。
③煮沸消毒またはアルコールで消毒したガラス瓶に、①のライムを入れ②を注ぐ。1週間~10日置けば完成。
レシピ・写真提供:料理家 江口 恵子(natural food cooking)
🌸著者|平沼 純
教育心理学を研究し、「自分の視点を持って考え、力強く生きていく力の育成」を目指して教育の世界へ。国語を専門とする学習塾で読書・作文指導などに携わったあと、花まるグループに入社。現在、小学生から中学生までの国語授業や公立一貫コース授業のほか、総合的な学習の時間である「合科授業」などを担当。多数の受験生を合格へ導くとともに、豊かな物語世界の楽しさ、奥深さを味わえる授業を展開し続けている。