【花まるコラム】『短パンマン』梅崎隆義

【花まるコラム】『短パンマン』梅崎隆義

 今回は、年長のときに花まるの教室で出会い、数年後にスクールFC中学受験コースで再会した男子のお話です。

 学校から帰ってくるやいなや、ランドセルを放り投げて近くの公園に駆けていき、友達と遊びつくす。これが低学年の頃から彼の日課でした。6年生になってからもFCがある日は出発する時間まで、そうでない日は夕食の時間まで、虫を採ったり、木材を加工したり、外遊び三昧だったようです。受験勉強もしながら遊ぶ時間を最大限に確保するために毎朝5時に起きて宿題に取り組む、と自分自身で決めて実行したのには感心しました。そんな彼を象徴するのは「半袖・短パン」の姿です。一年中、どんな天気の日であろうと半袖・短パンです。同級生から、寒くないの?と問われれば、オレはこうじゃないと調子がでないんだよ、と笑顔で答える。周りからどう思われようが、自分らしさを貫いていました。そんな姿勢は勉強面にも影響しており、国語の読解で、登場人物の心情を問うような問題ては「オレだったらこう思うから…!」が先に立ってしまい、不正解を連発。復習にも身が入らず、同じミスを繰り返している。算数・理科はとことん得意で、国語には長いこと苦しめられている。彼はそんな受験生でした。

 彼の第一志望は都内の私立中学。2月1日からスタートする都内入試に先駆けて、1月10日から埼玉県内の中学入試が始まります。学校の冬休みが終わりにさしかかり、勉強面では順調な仕上がりを見せつつ、彼の最初の入試が近づいてきました。

 「受験における一番の敵は、優秀なライバルではなく、自分自身の体調不良です。どんなに準備をしても、本番で実力を出せなければ水の泡でしょう。当日はエアコンの風が直撃する席かもしれない、隙間風が吹き込んでくる窓際の席で寒いかもしれない。自分にとってベストな状態は自分自身でつくれるようにしよう」授業のなかでそんな話をしました。

 彼は、いよいよだ!頑張ります!とても言わんばかりに、大きく頷きながら聞いていましたが、授業後に一人で私のもとにやってきました。「あの、先生…。おれ、長ズボン持っていないんです。受験生はみんな、そういう暖かい格好で来るんですよね?長ズボンをはかないと、点数取れないですかね…」

 周りの目なんて気にしない!で通していた彼から、こんな相談が出てきたことにまず驚きました。強そうに振る舞ういつもの様子の裏側に、漠然とした不安を抱えていたのでしょう。自分らしさは保っていたい、それていて自分を高めたい。高めるにはどうすればいいのか不安でもある。そんな葛藤から出てきた相談でした。笑ってしまいそうな内容でもありましたが、そこには確かに、彼の大きな変化が見て取れたのです。

 それから始まった1月の受験はかなり苦しい展開でしたが、勇気を出して相談をしてくれてから、こちらは少しずつ(本当に、少しずつ)変化と手ごたえを感じていました。「昨日の試験の記述解答をメモしてあるから見てください」「ここの選択肢の絞り方、あっていますか?」いままで避けていた部分に、真正面からぶつかるようになってきました。服装ひとつの話ではありますが、自分のこととして本気て悩んで、本気で考えることがてきたことに価値があります。そして、受験生だからああしなさい、こうしなさい、と強制することなく、見守ることに徹してくださったお父さま・お母さまの姿勢も、かっちりとかみ合う歯車になっていました。

 いつもの短パンの上に薄手の長ズボンをはいて試験を受けに行く、という折衷案で彼の入試は終わりました。4月、彼がひょっこりと校舎へ挨拶に来てくれたとき、「いつかこの話をおたよりに書くよ!」と伝えると「ありのままで書いてくださいね!」と爽やかに承諾してくれました。第一志望の学校の長袖・長ズボンの学ランは、ちょっと大きいですがよく似合っていました。

スクールFC 梅崎隆義(2021年)


*・*・*花まるコラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだより・FCだよりとともに、会員のみなさまにお渡ししています。


花まるグループの進学塾部門 スクールFC
〜親子が笑顔になれる”幸せな受験”を実現〜
・…∴∵小1〜中3 中学受験・高校受験・思考力育成・…∴∵
https://www.schoolfc.jp/

受験に合格することが、人生のゴールではありません。 考えなければならないのは、進学先で幸せになり、「自立した魅力的な大人」になること。スクールFCでは、受験カリキュラムに取り組みながら、 将来に渡って大切な、一生ものの財産を伝えます。

花まるコラムカテゴリの最新記事