サマースクールで出会った1年生のSくん。彼は気分の浮き沈みが激しく、自分の思い通りにいかないとイライラしてしていました。野外体験に初めて参加し、親元を離れ、「いつもはやってもらっているのに!」ということが通じないのがいやだったのかもしれません。
初日のお昼ごはんのときのことです。ごはんを食べている最中にSくんが立ち上がって近くをウロウロしはじめました。どうしたのだろうと思い声をかけようとした瞬間、
「こっちこないで!」
とすごい剣幕でこちらをにらみつけます。
「いまはごはんを食べる時間だから、席に戻ろうか」
と続けて伝えると
「も~! うるさいっ! うるさいんだよ!」
と怒りモードMAXで、私の足を蹴り、胸のあたりを殴ってきました。1年生ですが、男の子なので力は強いです。
「S、絶対に人に手を出してはいけない。絶対に。いい?」
と彼の手や足をつかみ冷静に伝えましたが、Sくんはそっぽを向いてふくれてしまいました。このとき、私の言葉は彼には響いていなかったように思えます。
2日目、楽しそうに活動に取り組んでいるSくん。気分が乗っている彼はとても人懐っこく、
「ねえねえ! こんな石を見つけたよ!」
「ぼく、トイレに行きたい。一緒についてきて?」
などと、何かあるたびに話しかけてくれるとてもかわいらしい一面も持ち合わせています。私と一緒に遊んだ、川での水のかけ合いが一番楽しいと言い、「次は絶対に負けないぞ!」と川遊びを満喫していました。
活動が終わり、お昼ごはん前のフリータイムでの出来事です。エネルギーをたくさん使ったからか、お腹が空いていたSくん。それに伴ってイライラしてきたようで、一生懸命ごはんを作ってくれている人たちに聞こえるように、
「おーーーい! ごはんを作るのがおそいよ! 早くしてよ!」
と言いました。その近くにいた私は、彼に
「S、一生懸命みんなのためにごはんを作ってくれている人に対してそういう言い方をしたら、相手はいやな気持ちになると思わない?」
と聞きましたが、
「ならな~い」
と何も感じていないようでした。私は肩をつかみ、目を合わせて話を聞くように促すと、
「もーなんだよ! やめろよ!」
と、また手を出してきました。
「S! 昨日、リーダーが言ったこと、覚えていない? “いやなことがあっても絶対に手を出してはいけない”って言ったよね。リーダーもいま、殴られていやだよ。でも、それでSのことを叩いたりしてないよね? Sならちゃんとわかってくれると信じているから、真剣に話しているんだよ。だからお願い。手は出さないで。いやだなっていう気持ちはもっていていいから、それをなんでもかんでも口に出したり、手を出したりするのはやめよう」
Sくんは変わらぬ勢いで私を殴っていましたが、私は彼の目をひたすらに見続けました。絶対にこのタイミングを逃してはいけない。彼が変わるチャンスは確実にここだ! 正に私と彼の真剣勝負です。次の瞬間、Sくんはスッと殴る手を止めたのです。
「相手のことを叩いたりしたらなんて言うの?」
と聞くと、少しの沈黙のあと、
「…ごめんなさい」
と涙ぐみながら私に伝えてくれました。サマースクールがはじまってから自分のことしか考えられなかったSくんが、初めて他者の気持ち・想いに寄り添った瞬間でした。私の気持ちが彼に伝わったことが、本当に嬉しかったです。
Sくんは活動を目一杯楽しみ、笑顔で帰っていきました。子どもたちとかかわるサマースクールでは大変なことも多いですが、このような成長に寄り添うためにスタッフをしているのだなといつも実感します。
親元を離れて生活することで、子どもたち全員が成長して帰ってきます。荷物の整理、時間意識、挨拶など、当たり前のことを当たり前にできる素晴らしさを伝えるられるのがこの野外体験です。
今後も子どもたちと常に向き合い続け、生き抜く力を育めるよう精一杯サポートしてまいります。
花まる学習会 高野優太朗(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。