【花まるコラム】『再会』豊田星那

【花まるコラム】『再会』豊田星那

 先日、見覚えのある顔とすれ違いました。何やら急いでいる様子で、自転車を走らせている男の子。すぐにわかりました。2年前に担当していたYくんです。星野源と誕生日が1日違い、だから星野源が好きだと言っていた、あのYくんとすれ違ったのです。一瞬の出来事でしたが、中学生になった彼は少し大人びていたように感じました。彼はいつも時間ギリギリに教室に来ていたので、いまもそれは変わっていないのかなぁ、と急いで通り過ぎた彼を見て思わず笑ってしまいました。ほんの数秒の出来事。それでも胸がポカポカするような、そんな気持ちになりました。【再会】はどんな形であっても嬉しいものですね。

 話は変わりますが、私には、印象に残っている先生がいます。それは、年長のときの担任の先生です。いつもにこにこしている「わかこ先生」という優しい女性の先生でした。印象的と言っても、5、6歳のときにかかわった先生なので、どんな先生だったのか鮮明に覚えているわけではありません。映像として最も色濃く残っている記憶は、梅組のロッカーの前で、みんなで叱られた記憶です。(そのときのわかこ先生の顔はこわかったな)といまでも、それだけはよく覚えています。
 幼稚園を卒園してから10年が経った頃、わかこ先生から封筒が届きました。その封筒には「タイムカプセルレター」と書かれていました。「タイムカプセルレター」という文字を見て、幼稚園を卒園する年の3月に将来の夢をみんなで書いたことをふと思い出しました。「ようちえんのせんせいになりたい。」中身を見てみると、記憶の通り、6歳の頃の私の将来の夢が記されていました。就いた仕事は幼稚園の先生ではありませんが、好きなこと、やりたいことは6歳の頃から変わっていないようです。
 封筒のなかには、わかこ先生からの直筆の手紙も入っていました。そこには、「年長さんのときの○○ちゃんは、音読がとっても上手で笑顔の素敵な女の子でした。」と書かれていました。読みやすい、教科書のような綺麗なわかこ先生の字。それは紛れもなく、絵日記にコメントを書いてくれていたわかこ先生の字でした。その懐かしさを感じる字を見て、わかこ先生に【再会】できたような気がしました。それと同時に過去の自分と【再会】し、いまの自分の選択は間違っていなかったんだ、と確信しました。
 私にとってわかこ先生は、たった一人の年長の担任の先生です。しかし、わかこ先生にとって私は、かかわったたくさんの子どもたちのうちの一人です。それも10年も前のこと。わかこ先生が私のことを覚えてくれていたことに驚きました。私が「先生」になることを決めたときに、真っ先に思い出したのはわかこ先生のことでした。「わかこ先生のように、一人ひとりに想いを馳せられる先生になりたい」。わかこ先生との【再会】は、いまの私に大きく影響しています。

 先生という職に就いて感じたことがあります。お母さま、お父さまにとって、お子さまがずっとわが子であるように、私たちにとって、子どもたちはずっと教え子です。何年経っても、何十年経っても、たとえ教室から巣立っていったとしても想いは変わりません。
 子どもたちが大きくなったとき、花まるで過ごしたことを鮮明には覚えていないかもしれません。それでも、何かを選択する機会や、困難なことに直面したとき、花まるでの出来事をふと思い返し、前に進むきっかけになっていたらいいなと思っています。6年生の男の子に、花まるで得たこと、これからの目標を聞いたらこんな言葉が返ってきました。「努力は報われる。だから絶対に途中で諦めたくない」。一つのことを最後までやり抜く強さを花まるで得たと彼は力強く語ってくれました。

 幼少期に抱く純粋な夢。好きなこと、やりたいこと。子どもたちにはそれらを大切に持ち続けてほしいです。それらが、将来の自分を形成する大事な一歩になるからです。教室では子どもたちの好奇心の芽を摘まずに育てていきます。芽を出し、成長するのは子どもたちですが、育つ環境を整え、水をやるのが私たち先生の役目です。子どもたちが大きな花を咲かせ【再会】しに来てくれること。その日を楽しみに、今日も大切にお子さまをお預かりします。

花まる学習会 豊田星那(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事