【花まるコラム】『囲い』樫本衣里

【花まるコラム】『囲い』樫本衣里

 「褒めること」「認めること」の大切さは、日々いろいろな場所で耳にします
 保護者の方からは、「なかなか褒めることができないんですよね~」「つい毎日叱ってばかりで、反省です…」というお声をよくいただきます。花まるの授業は週に1回ですので、子どもたちの成長がとてもよくわかります。ですが、日々生活をともにしていると、その変化に気づくのが難しいことも。先日、「褒める」ということについて深く考えさせられるエピソードがありました。

 4月某日。4年生Aくんのお母さまと面談をさせていただきました。「クラス替えがあったと思いますが、学校には楽しく通っていますか?」という話をしていた折に、「そういえば先生!」と教えてくださったのが下記のお話です。
 担任の先生が字の丁寧さを大切にされており、「漢字ノート」の宿題では、特に字をきれいに書いてきた子がクラスで1名「キラキラ賞」に選ばれ、キラキラのシールをもらえるとのこと。そのシールが欲しい、とAくんは帰宅するなり一生懸命漢字ノートに向き合っていたそうです。書いては直し、ノートが消しゴムで消しすぎて擦り切れるほど。何度書いても思い通りの字を書くことができず、涙を流して取り組み、何時間もかけてやっと仕上がったノートを手に、Aくんは学校に向かったそうです。その姿を見て、お母さまとしては「そこまで頑張らなくても…」と感じ、ご相談くださいました。
 それから2か月後の6月。再度、そのお母さまとお話をさせていただいたときに、ふと4月の漢字ノートのことを思い出し、「その後、漢字ノートの宿題、どうなりましたか?」とお伺いしてみると、「そういえば先生! もういまは、力を抜いて書いちゃっています~!」とお母さま。
 あれだけ頑張って宿題を仕上げたのに、どうやら担任の先生に褒められるどころか、何も言われなかったのだそう。「これだけ全力を出して、何時間もかけて書いて提出したのに、欲しかった『キラキラ賞』をもらうことができなかった。これ以上きれいに書くことはできないから、もう力を入れるのはやめよう」と思ったのかもしれません。

 このエピソードを聞いて「あ~褒められなくてよかった…!」と心から声が出てしまいました。もちろん一生懸命取り組んだAくんの頑張りは尊く、その取り組みに、何かしら先生から声をかけてあげて欲しかったと感じます。しかし、もしもそこで念願の「キラキラ賞」をもらうことができていたら…もしも「素晴らしいね! 頑張ったね!」と先生から褒められていたら、もしかしたらAくんは「漢字を練習して覚える」という本来の目的とは外れた行為に、いまも貴重な時間と心を使い、「もっときれいに、もっと美しく」という囲いから抜け出せなくなってしまっていたかもしれません。

 何を褒めるか、何を叱るか。
 これは非常に奥深いものです。褒められると「また頑張ろう」と思い、その行為を繰り返すようになりますし、叱られるとその行為は避けるようになります。褒めるも叱るも、その先に何があるか、その行動を続けるとどうなるか、思いを馳せてから子どもたちに声をかけていきたいと改めて感じました。
 とは言っても、瞬時に判断することは難しいもの。そんなときは、子どもたちに「問いかける」ということを大切にしていただけると良いかもしれません。
 「Aくんは、キラキラ賞をもらえなくてどう感じたの?」「残念だった」「そうだよね、あんなに頑張っていたものね。そもそも漢字の宿題ってどうして先生出しているのだろうね?」「う~ん、漢字を覚えられるようになるためかなぁ」「きっとそうだね。漢字の練習は、きれいに書くことよりも覚えることのほうが大切だものね。大切なことを学べたね」などと、問いかけながら、最後は「良かったね」と終えてあげる。すべてに対してこのようなやり取りをすることは難しいかもしれませんが、「問いかけられたこと」を子どもたちは考えます。そして気づきます。
 子どもたちが自ら考えて行動できるように、言葉を丁寧に扱える人でありたいと思います。

花まる学習会 樫本衣里(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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