【花まるコラム】『考える楽しさ』草替美柚

【花まるコラム】『考える楽しさ』草替美柚

 日増しに秋の深まりを感じる季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。秋といえば「食欲の秋」「スポーツの秋」などがありますが、私にとっては、なんといっても「読書の秋」です。

 「読書の秋」は、中国唐代の文人・韓愈の詩「符読書城南」の一節からとった「灯火親しむべし」が由来とされています。涼しく長い秋の夜は、灯火の下で読書をするのがよいと思うことは、昔から変わらないのですね。暗くなる時間帯が早まり、外で遊べる時間も短くなり、当時小学生の私は家で何をしようかと考えるたびに本を手に取っていました。母が本好きで、本棚にはいつも新しい本が置いてあり、そのなかでもおもしろそうと思ったハードカバーの大きな本を、何日もかけて読んでいました。その頃に好んで読んでいた本は、上橋菜穂子さんの『精霊の守人』シリーズです。上橋さんの独特な世界観や幻想的な表現、ハラハラする展開には、何度読んでも魅了されます。なかには政治的な内容もあり、子どもの私はその部分を理解することができませんでした。しかし、全体の大まかな内容は理解でき、楽しんで読んでいました。いまでも時々読み返しては「ああ、ここはこんな意味だったのか」と新たな発見をしています。

 そんな私のもう一つの趣味は、「自分で物語を書く」こと。そのきっかけは、母の些細な一言でした。小学1年生のとき、アメリカの作家さんの本を日本語訳した小学生向けの本、『ひみつのドルーン』本を買ってもらいました。ある仲のいい3人の子どもたちが、家の地下室で「ドルーン」という異世界に続く階段を見つけ、その世界でお姫様や不思議な生き物と一緒に悪い敵からドルーンを守るというお話です。当時の私は、何度も読み返しては「私もこの世界に行きたい!」と思っていました。しかし、まだまだ続きがあるのに2冊目までしか日本語訳の本が発売されていなかったのです。「続きが読みたい!」と駄々をこねた私に、「そんなに読みたいのなら、自分で続きを書いてみればいいじゃない」と、母が言いました。「その手があったか!」と、当時の私にとっては目から鱗で、すぐに余っていたノートに物語を書き始めました。「どんな出会い方がおもしろいかな?」「この先はどんな展開にしよう」と、ワクワクしながら悩んでは書きなおしました。自分で考える高揚感やドキドキが、とても楽しいものでした。

 このように物語を考えることが好きな私ですが、子どもたちの発想力にはいつも驚かされます。花まるの授業ので扱う「たこマン」という教材は、物語を作ることと同じ「発想力」をテーマにしており、ある場面の絵を見て「この場面のあとこうなったらおもしろいんじゃないか?」とオチを考えて発表します。教室では、「発表タイム!」と言った瞬間に「はい!」「はい!」と手があがり、たとえば3年生のAちゃんは、雪のなかにいるトナカイの絵を見て「トナカイはショートケーキの上にいて、雪は全部クリーム!」と発表しました。聞いている側も、「たしかにそう言われるとそう見えるね」「それ、おもしろい!」と、相手の考えを受け入れます。また、「あ!いまの発表を聞いてさっきよりおもしろいオチを思いついた!」と、よりよいオチを考えようとする姿もみられます。みんな違った見方をしては、個性あふれるオチを発表しています。

 ものの見え方という点で、サマースクールでこんなことがありました。キャンプファイヤーの時間。チームの子たちと一緒に火を見つめていると、「火の上の方、魚が泳いでいるみたいだね」「火の粉って、生き物みたいに動くね」「火が踊っているみたい」と、子どもたちが自分の目にどう映ったのかを教えてくれました。私は「火はこういうものだ」と認識していたので、子どもたちにはそんなふうに見えていたのかと驚きました。子どもの考え方には、枠がありません。自分はどう思ったのか、どう見えたのか、そういったことを大切にしながらもほかの人の意見を受け入れ、自分の考えの幅を広げていきます。そんな「考える楽しみ」を授業のなかで一緒に味わっていくことが、いまの私の楽しみです。

花まる学習会 草替美柚(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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