【花まるコラム】『目線の先にあるもの』髙橋駿輔

【花まるコラム】『目線の先にあるもの』髙橋駿輔

 花まるの野外体験は、2021年3月より約1年ぶりに再開しました。私も班リーダーとして2泊3日でスキーをたっぷり練習するコースに参加したのですが、そこで2年生のTくんと出会いました。
 集合場所の東京駅で、保護者の方よりお預かりした瞬間から、班の列を飛び出そうとするTくん。初めはお母さんと離れるのが寂しく、追いかけようとしているだけかな、と思っていたのですがそうではありませんでした。電車のホームに向かって歩き出すと、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ。すぐに列からはみ出してしまいます。はぐれてしまったり、周りの人にぶつかってしまったりする可能性があるので、「Tくん、危ないから真っすぐ歩こう」と呼びかけても聞く耳を持たず。見兼ねたほかのスタッフが手をつないで一緒に歩こうとしても、その手を振り払ってどこかへ行こうとしてしまいます。このとき私は、Tくんのことを「話を聞いてくれない子」だと思ってしまいました。のちに、これが間違っていたことに気がつきます。 

 無事に電車に乗ることができ、新潟県越後湯沢に到着します。電車から降りてからもTくんワールド全開。Tくんが進みたいと思う方向に歩みを進めます。
 なにかTくんのためにできることはないかと考えた私は、まずTくんのことをじっくり観察することにしました。宿へ向かうバスを待っている間、じっとTくんのことを見ていると、あることに気がつきました。Tくんは必ず何か気になるものを見つけると、その方向に走っていく、ということです。その特徴に気づいたときにも、またTくんが何かに向かって走り出していました。落ち着かせて、「何か見つけた?」と聞いてみると、
「あそこの看板が気になるの」
と一言。その方向を見ると、私たち側からだと何が書いてあるかわからない標識がありました。「確かに気になるね。でも、あそこはまたあとで通る場所だから、そのときに見てみよう!」と伝えると、
「うん」
と頷いてくれました。ここでようやく、Tくんは「話を聞いてくれない子」ではなく「いろいろなことに興味をもつ子」であるということがわかりました。

 それからは、Tくんがどこかに行きそうになったら声をかけてその目線の先に何があるのかを確認する、ということを続けました。すると、どこかに急に走り出すことはどんどん少なくなっていきました。それだけでなく、「あれは何かな?」と私に質問するようになったのです。Tくんの行動に注目するだけではなく、寄り添い、認めてあげることで、Tくんとの信頼関係を築くことができたのだと思います。

 その子の行動や、それにより起きた結果だけではなく、考えた過程や気持ちに寄り添う。野外体験の場ではもちろん、教室でも大切にしていることです。Tくんがそうだったように、子どもたちの行動には、それをするにいたる理由や気持ちの移り変わりがあると思っています。それらを聞くと、まったく予想していなかったその子の新しい一面が見られることがありますし、その子とどうかかわっていけばよいかを見つけることができるかもしれません。
 子どもたちが何を思いながら授業を受けているのか。その目線の先の世界に思いを馳せながら、子どもたちの一瞬一瞬の行動の裏にある想いに寄り添ってまいります。

花まる学習会 髙橋駿輔(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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