【花まるコラム】『熱意を持って接する』町田光優

【花まるコラム】『熱意を持って接する』町田光優

 5年生のSくん。とあるオンラインゲームにハマっています。学校の友達とオンライン上で会い、ゲームをする。それが日課です。あるとき、たまたま体調不良で花まるを2週間連続で休みました。それがきっかけで彼は教室に来なくなってしまいました。そこでお母さまと面談をしました。話をうかがうと、事態は想像していたよりも深刻でした。「お手伝いと宿題ができたらゲームをしていい」という約束だったはずが、あの手この手を使って逃れ、ゲームをすることにとにかく執着している。いまでは家でゲームをすることにしか興味がなくなってしまった。花まるの宿題にも気が乗らないため手をつけられず、さらに休んだことがきっかけで花まるの勉強にもついていけなくなってしまい「じゃあもう行きたくない」という状態。お母さまも、どうにかしなければと思いながらどうすることもできない状況に困り果てていました。お母さま、そしてSくんとも話した結果、私が毎日彼に電話をし、10分間一緒に宿題に取り組む約束をしました。

 電話でのやりとりを始めた当初、Sくんはゲームをしながら電話に出ていました。さらに授業日には、お母さまに教室へ連れてきてもらっても逃げ出していました。
「Sは、ゲームをすること以外すべてに興味がないんです」
とお母さまも意気消沈。電話で宿題に取り組んでいるときも、私が指示を出さないとやれず、お母さまの目が届かない自室に籠ってダラダラと取り組み、難しい問題にあたると考えることを諦めて誤魔化す。そんな状態でした。私は、
「電話しているこの10分も本気になれないで、いつ本気になるんだ」
「先生は絶対に怒らないから、この時間だけは嘘や誤魔化しをなしにしよう」
と、メッセージを伝え続けました。

 電話をかけはじめて2週目。宿題を授業前日までにすべて終えることができたSくんは、足取り軽く、すんなり教室に来ることができました。まるで憑き物が取れたかのように心が軽くなっていることが伝わりました。「宿題ができていない」という後ろめたい気持ちさえなければ、「宿題をちゃんとできたぞ!」と胸を張ることができれば、彼は自ら歩み始めることができるのです。この快感にも近い喜びを噛みしめることができたこと、これが彼の変化のきっかけになりました。

 いまでは、お母さまにサポートしてもらいながらも
「今日はサボテン〇ページと国語をやります」
と自分でその日のノルマを設定します。さらに、
「この問題がわからないです」
「すみません。ゲームをやっていて準備が遅れました」
と誤魔化さずに状況を伝えることができるようになりました。この頃から、Sくんの言葉一つひとつに前向きな気持ちが感じられるようになりました。

 そうして3週目も過ぎた頃。お母さまに話を聞くと、Sくんは
「オレは変わったんだ!」
と喜んでいるとのことでした。そして先日、いつものように宿題を終えてお母さまに代わってもらうと、
「Sが先生に話したいことがあるって言うので」
と再びSくんに電話を代わりました。そして、
「宿題を見てくれてありがとうございました」
と、早口でお礼を伝えてくれました。大変驚きました。お母さまから言うように仕向けられたのかとも思ったのですが、
「自分から話したいと言っていました。恥ずかしさから小踊りしていましたよ」
とお母さま。え!まさかあのSくんが!とさらに驚きました。意気消沈していたお母さまが少しずつ元気を取り戻している様子もうかがえた、あたたかい出来事でした。

  楽をしたい、自分の好きなことだけをしたい。そんな気持ちから生まれる嘘や誤魔化しは、高学年としての健全な成長の証でもあります。「やりたくないな」と思っていても、きっかけさえあれば取り組む力をもっている。やればできる。できれば次も頑張れる。そのことに気づかせてあげられるのが外の師匠である私たちです。子どもたちを応援し、熱意を持って向き合い続けてまいります。

花まる学習会/アノネ音楽教室  町田光優(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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