「あのね、今日の花まるすごく楽しみだったの!」
「あのね、運動会でリレー選手に選ばれたよ!」
「あのね、明日はママの誕生日なの!」
教室に来たとき、作文のテーマを考えるとき、子どもたちは最近のできごとや自分の好きなことについて、生き生きと教えてくれます。1年生のMちゃんもその一人。教室に到着するなり、私の元に小走りでやってきました。ぴょんぴょん跳ねながら、「あのね、あのね」と話し出すMちゃんからは、いますぐに話を聞いてほしい、相手に届けたいというまっすぐな気持ちが伝わってきます。
「あのね、ちょっとさ、絶対みんなに言わないって約束してくれるなら教えるんだけど…」
「なになに?」
「あのね、えーと、みんなに聞かれたら困るんだよね」
「うーん…じゃあ、こしょこしょ話は?」
「じゃあ、お耳貸して」
「いいよ」
「あのね、今日ね、Mの夢が叶ったの…!」
「え!すごいね、夢が叶ったなんて!」
「大きい声だしちゃダメ!」
「そうだった…!どんな夢が叶ったの?」
「あのね、今日ね、席替えでね、Mの好きな子とね、お隣になったの!きゃー!」
「よかったじゃん!そのこと、今日の作文に書いたらどう?」
「ふふふー♪」
最後はセリフの後に音符がついているかのような、軽い足取りで自分の席に戻っていったMちゃん。その後、幸せそうな笑顔で、作文に夢が叶った話を書き綴っていました。
堂々と「夢が叶った!」と目を輝かせるMちゃん。なんてかわいらしい夢なのでしょう。思い返せば、子どもの頃の席替えは、一大イベントでした。そして、好きな子と席が隣になることが夢になるほど、子どもたちにとって重要なもの。くじ引きだったり、先生が決めたり、席替えの方法はさまざまですが、発表されるときのドキドキと緊張感がふっとよみがえりました。その感覚は、自分も経験してきたけれど、大人になるにつれて薄れていったものでした。
大人になって気づく、忘れてしまった「子どもの世界」があります。Mちゃんに「あのね」と話しかけられ、Mちゃんと同じ目線になるようにしゃがんで話していると、普段、知らず知らずのうちに「大人の目線」や「大人の世界」で過ごしているな、と気づかされました。子どもの関心や目線、考えていること、自分の子ども時代と変わっていること、もっと知って、あるいは思い出して接していきたいと思った一幕でした。成長していくにつれて、だんだんと変化していく、「いまだけの、その子の世界」。
「あのね」で始まるお話は、「共感してほしい」という気持ちから生まれるのだと思います。どんなに小さなことでも、自分の世界で見えたことを伝えたい。小さなきらめきを共有し、一緒に喜び、楽しみ、ときには悲しみ、悔しがってほしい。毎日の生活のなかでそのすべてにじっくりと耳を傾けることはかなわないかもしれません。しかし、お子さんがどんな世界を見て、どう切り取って、どんな言葉で表現していくのか、「いまだけの、その子の世界」を一緒に味わえるのは、子育ての醍醐味かもしれません。
花まるでも、お子さまそれぞれのエピソードをお伝えしてまいります。ぜひ、保護者のみなさまからも、ご家庭や学校でのお子さまの様子を教えていただけますと幸いです。「いまだけの、その子の世界」をともに見つめ、ときには一緒に悩み考え、お子さまの成長をサポートさせていただきます。
花まる学習会 金井彩(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。