【花まるコラム】『小さなアーティストたち』相澤樹

【花まるコラム】『小さなアーティストたち』相澤樹

 昨年は花まる学習会内の感染症対策メンバーの一人として、何が正解か見えないなかで情報を集め、対策を講じ続け、現場のサポートに奔走する日々を過ごしていました。入社して15年目にして初めて担当する教室を持たない一年間でしたが、これが心身ともになかなか堪えました。どれだけ自身の教室に通う生徒と過ごす時間が大切だったのか…。改めて子どもたちから多くのエネルギーをもらっていたことに感謝しながら一年間を耐え過ごしました。念願かなって2021年度から現場に戻りましたが、一年間のブランクは決して悪いことばかりではなかったことに気づかされます。とにかく毎週子どもたちに会えるのが待ち遠しく、すべての表情や表現が愛おしく、課題に向き合い頑張る姿を見ると「いつまででも付き合ってやるぜ」と滾りまくれる授業日は何にも代えがたい幸せな時間です。「会えない時間が愛 育てるのさ」とその昔、郷ひろみさんが歌っていましたが「会えない時間があったお陰で子どもたちと向かい合う愛が一段と育ったな~」と実感するものです。本日、一学期の終業日を迎えましたので、保護者のみなさまにはお子さまを預けてくださっている感謝の気持ちを込めて、花まるでの頑張りを伝えるお電話をさせていただきますね。

 さて、花まる学習会の各コースにはテーマが設定されていることをご存じでしょうか。今回取り上げる年中コースは、「創造力を育む」ことを大テーマとしてカリキュラムが構成されています。4歳児が見せる創造性豊かな発想は、ときに大人の想像を遥かに超えていくものです。

 昨今、ビジネスにおいて「アート思考」が注目されています。ざっくり言うと「アーティストの思考法を取り入れる」ということなのですが、明確な定義が定められている訳ではなく、現時点においては非常に抽象的な概念と言えるものかと思います。しかし、4歳児の行動や物事を見る視点や新たな発想に至るプロセスを観察していると、これがアート思考の源泉ではないかという場面に幾度となく出くわします。

 ある日の特別授業では、ティッシュを使った思考実験をおこないました。私が上から落とすティッシュをキャッチする遊びをしてみたり、ティッシュを四つ折りにして水性ペンを押し当てると、インクが滲み、色がうつるということを教えたり。思い思いに「教えたこと」を楽しみ始め、緩やかに自由な時間を作ると子どもたちの思考が働き始めます。すると一人の男の子が動いているサーキュレーターに目をつけました。おもむろにティッシュを近づけて手を離すと勢いよくティッシュが舞い上がります。たとえばこの瞬間。

 また、ある日の授業では「浮力」をテーマにした思考実験の時間で、桶いっぱいに水を張り、事前に用意しておいたさまざまな物が浮くのか沈むのかについて予想をしていました。しかし「水×子ども」ほど化学反応が起こり、思考がブレイクスルーするものはないと思わされます。水があれば本能的に手を入れたくなる。手を入れたら濡れる。濡れたら水遊びをしたくなる。ひとしきり飛び散る水のしぶきが体にかかることに満足すると、大人が思いもしないものを水に入れてみたくなる。今回ある子が至った思考は「醤油を入れたら浮くのかな?沈むのかな?」たとえばこの過程。

 つまり「既成概念を超越して直感的に表現してみたい」ところに「アート思考」はあると思うのです。大人が求める「こうしよう」はどこか予定調和を子どもなりに感じるのでしょう。それは、子どもたちが考える「こうしたい」という好奇心、心の躍動にかなう訳がありません。また「こうしたい」という行動の先にある結末ほど、やはり心にも頭にも残るものです。

 いま、子どもたちを取りまく環境は既製品であふれ、遊んでもらえるコンテンツは山ほどある時代です。そのこと自体に否定も肯定もしませんが、やはり自分で生み出す遊びは大切にしてほしいと思います。1枚のティッシュ、1本の鉛筆と1枚の紙、一見何もないように見える原っぱ。限られた条件のなかで、無限に遊びを生み出せる子に育ってほしいと願いを込めて、これからも授業をおこなってまいりますね。

花まる学習会 相澤樹(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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