「居残り」と聞くと、あまり良い印象は受けないのではないでしょうか。私は小学生のとき、とある漢字テストで再テストになり、そこでも合格できなかったことがありました。なかなか合格できない私は、居残り決定。出題範囲の漢字をすべて5回ずつ練習することになりました。いつもは賑やかな教室で1人漢字を練習する、孤独な私。自分はできない人間なのかと悲しい気持ちになりました。早く帰りたいという気持ちと「あんなに練習したのにどうして居残りなんだろう」という気持ちで頭のなかがいっぱい。嫌々書いていたので漢字は覚えられず、手が痛くなったことは覚えています。
高学年プラスコースでは、宿題で新しい単元を動画で学び、授業内では確認ペーパーというミニテストを実施します。確認ペーパーで定着度を確認し、場合によっては、居残りをしてフォローしています。
私の教室では、いやな気持ちで居残りをしてほしくないので、授業後30分と決めて集中して取り組んでいます。また、「居残り」という言葉ではなく「選ばれし者」という表現で伝えています。選ばれし者でなくても、確認したいことがある子や話したいことがある子も残ってほしいと伝えています。
高学年プラスコースに通っている4年生Sちゃんは、明るくて、いつも笑顔の頑張り屋さんです。算数では、新しい単元に入るたび理解に時間をかけていますが、いやがることなくコツコツ積み上げてきました。
理解するまでじっくりコツコツ進めるタイプのSちゃんは、よく選ばれし者になりますが、授業もいやがることなく真面目に取り組みます。ある日、選ばれし者にならなかったSちゃんが、授業終了の挨拶をしても残っていました。
「今日は残らなくて大丈夫だよ!」
と伝えると、Sちゃんは「ここ」と問題を指さして、質問。
「この問題がわからなかったの。教えてください」
自ら授業後に残って、Sちゃんは納得するまで取り組みました。
30分を過ぎたところでSちゃんに「時間がきてしまったけれど、この問題を最後までやる?」と聞くと、すぐに首を縦に振って熱心に取り組みます。Sちゃんには「わかってスッキリして終わりたい!」という気持ちがあるのでしょう。最後まであきらめることなく、納得した顔で居残りを終えました。
二学期に入り、私はふと疑問に思ってみんなに問いかけました。
「学校ではいま、どの単元を習っているの?」
花まるとどれくらい進度が違うのかを把握するための質問でしたが、Sちゃんが真っ先に手をあげてこたえてくれました。
「3桁と2桁の筆算!計算がスラスラできるんだよ!」
とニコニコ笑顔。
3桁と2桁の筆算は、Sちゃんが選ばれし者として必死に取り組んだ、思い出深い範囲。できるようになったことを自信満々に話していました。学校の進度のほうが遅いようで、「花まるでやったところは完璧!」と言っていました。
Sちゃんにとって居残りは、わからない問題が理解できてスッキリする時間だという認識があるのでしょう。その前向きな気持ちが、彼女を成長させました。私は、居残り=いやなものという感覚がずっとありましたが、彼女が笑顔で「できるようになった!」と話し姿を見て、居残りも前向きな気持ちがあれば素敵な時間になることを実感させられました。Sちゃんは、現在取り組んでいる新しい単元にも、選ばれし者として一生懸命取り組んでいます。
花まる学習会 尾瀬戸涼(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。