【花まるコラム】『きみがいるから頑張れる』藤枝詩織

【花まるコラム】『きみがいるから頑張れる』藤枝詩織

 以前担当していた教室に、当時4年生の男子Yくん、Kくん、Mくんの3人組がいました。彼らは小学1年生のときから何をするにもずっと一緒で、誰が見ても仲が良くて、授業後には3人肩を組んで帰っていく姿が印象的でした。小さなもめごとがあってもすぐに仲直りする彼らでしたが、一度だけその仲がこわれそうになったことがありました。それは、高学年の授業中に突然にやってきたのです。いつものようにテキストを進めていると、突然ガタッと音が聞こえました。何かと思い見てみると、KくんとMくんが互いの胸ぐらをつかみ、睨み合っていました。どうしたのかと思い、ことの始まりを聞いていくと、
Kくん「Mがさ、俺が辞書を使っていたのに勝手に取ったんだよ!」
Mくん「俺、さっき貸してっていったじゃん!」
Kくん「俺は貸すなんて言ってないだろ!」
と、どちらも一歩も引かず…。どれだけ私が話を聞いても納得することはなく、結局その日は互いに顔を見合わせることも、いつものように肩を組むこともなく帰っていきました。その日の夜、Kくんのお母さまからお電話をいただきました。Kくんがお風呂からあがってからずっと泣いているというのです。Kくんに電話をかわってもらい、話を聞くと
「実はさ、辞書の取り合いしているときにMの鉛筆が指に刺さったんだ。俺はそっちのほうが許せなくて、家に帰ったら悔しくなって…」
とポツポツと話し出しました。私からKくんに伝えたことは、その状況に気づけなかったことへの謝罪と、次の授業で話し合う時間を作ることでした。その一週間後、いつものように教室に来るMくんとYくん。そして、少し遅れて教室に入るのをためらうKくんがいました。もう先週の喧嘩のことなんて忘れているMくんは、Kくんに近づいて話しかけます。
「おいおい、K遅いよ~!待ってたよ!」
しかし、先週の記憶が残っているKくんは黙ったまま。少し時間が経つと、その場で泣き出してしまいました。MくんもYくんもその姿を見てぎょっとしてしまいました。
Mくん「おいおい、どうした?大丈夫か?」
Yくん「なにかあったのか?」
と声をかけます。それを聞いたKくんは、
「お前のせいだよ!ふざけんな!」
と怒りをあらわにしました。そこからは、3人と私で話し合う時間にしました。Kくんは「手を出されたことに納得がいかない」と言い、Mくんは「そんなことはやっていない」と言います。なかなか2人の話を聞いても互いに譲れない部分があったようで、しばらく沈黙が続きました。しかし、その沈黙を破ったのは、ずっと2人の様子を見守っていたYくんでした。
「俺らさ、ずっと仲良かったじゃん?俺、2人のこと大好きだし、これから先もずっと友達でいたいから、3人でごめんなさいしよう?」
それを聞いた2人は、まだ少し納得がいっていないようでしたが、3人で「ごめんなさい」と言い合いました。その後、Yくんが
「よし!戻ろうぜ!授業始まっているよね?」
とKくん、Mくんの間に入って肩を組みながら授業に戻っていきました。授業が終わる頃には、授業前の険悪な雰囲気はなく、さっきまでのいざこざはなんだったのかと思うほどいつも通りの仲の良い3人組。その日は、肩を組んで教室を後にしました。
 そしてつい先日、6年生になった彼らと話す機会がありました。そのときも3人はずっと肩を組んでいて、
「俺ら、ずっと友達だからな。こいつらがいないとなにも楽しくない!中学生になっても3人で支え合っていきます!」
と話していました。当時は何回ももめごとを起こしてきた3人でしたが、そのぶん、切磋琢磨する場面や互いを思いやる場面も多かったことを思い出しました。“きみがいるから頑張れる”そんな友達が1人でもいることが心の支えになる。そのことを本当に素敵なことを子どもたちから教えてもらいました。 

 

花まる学習会 藤枝詩織(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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