私の中学生の頃からの夢は、小学校の先生でした。大学でも教育について学び、このまま小学校の先生になるのだろうなと思いながら生活をしていました。しかし、いよいよ就職を決めるときに脳裏によぎったのは、スイミングのKコーチの存在でした。
Kコーチの声ほど頼りになるものはありませんでした。私が通っていたスイミングでは、テストのときそれぞれの担当コーチがずっとそばについて本気の応援をしてくれました。泳ぐことは好きだった私ですが、テストは緊張感が半端ではなく、苦痛だという感情のほうが大きくありました。会場は静かで、自分の呼吸の音と泳ぐ音、そしてコーチの声だけが聞こえます。体力と精神力が削られていき、身体の力がだんだんなくなっていくのがわかります。心のなかで「もう無理」と何度も何度も考え、泳ぐことをやめてしまおうとも思いました。そんなときに聞こえてきたのがKコーチの声でした。息継ぎで顔を上げるタイミングに合わせて、何度も「おーいっ!おーいっ!いけ!諦めんな!!!」と大声で叫んでくれました。
その声を聞いて、「まだいける、自分はいける」と諦めかけていた心を幾度となく奮い立たせることができました。Kコーチはテストのあと、ガラガラ声で、「みんなよく頑張ったな」と言ってくれました。いまでも思い出す、心に深く残っている思い出です。
私がコーチから身を持って教えていただいたことは、取り組んでいる最中に認めることがいかに大事かということです。この経験があったから、より子どもたちにそばで声をかけ続ける存在でいられる花まるの教室長になろうと思いました。
11月に算数大会を行いました。今回のテーマは「粘り強く考える」ということ。子どもたちが諦めがちになるような問題が多く、このテーマにしました。
今回特に印象に残っているのが2年生のRくん。いつも授業に本気で取り組み、感情豊かで泣くこともしばしばある男の子です。
あるゲームで残り時間が少なくなってきたときのことです。「あと1分で終わります!」と声を掛けると、Rくんは「うーん。もー、最後までやりたい!」と体を震わせ、泣きそうになっていました。そこでKコーチの言葉を思い出しながら「頑張れ!!大丈夫や」と言いました。すると震えが止まり、集中を維持することができていました。
ゲームがすべて終了し、表彰の時間がやってきました。チームの先生が「今回のMVPはRくんです」と理由を添えて言うと、服で顔を隠していたRくんは驚いた顔で「え!なると思わんかった!」と喜んでいました。Rくんと同じチームの子たちも満場一致で納得。みんなが称えていました。大会で頑張ったことや苦い思い出も大人になってから、あのとき花まるにいてよかったなと感じてもらえたら嬉しいなと思います。
通常授業内では子どもたちが諦めそうになる場面が見受けられます。たとえそれが自分の好きな教材だとしても、です。なぞぺー好きな子が、わからなくなると、好きだからこそ「やりきりたい!」という想いから 「先生ヒントちょうだーい」と諦めそうになります。そこですかさず「諦めていいの?時間をかけてもいいからチャレンジしてみよう!間違っても大丈夫だから」と声を掛けてあげると安心して最後まで解き切ることが多いです。高学年男子は特に、このような声かけをしてあげると意地でも解き切ろうという姿勢になります。
このように、その瞬間だからこそ声かけをする意味があり、少し時間が経ってしまうと子どもの熱が下がり一気にやる気もダウンします。
子どもたちのサポートをしていくうえで私が大事にしていることの一つが「瞬間的に声をかける」ということです。子どもたちがやるべき課題に心を強くもち、やる抜くことを当たり前にできるよう声かけをし続けます。
花まる学習会 伊原健太(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。