【花まるコラム】『さむらいはどこから来たの?』加藤千尋

【花まるコラム】『さむらいはどこから来たの?』加藤千尋

 「9月は30日までだね。夏休みが終わって1か月。いま学年が半分終わるところ。ここからまた後半に向けて、自分が成長できるようにがんばっていこう!」そう伝えて、授業冒頭に行う四字熟語教材をスタートしようとしたときのことでした。

 ある子がつぶやいたのです。
「にしむくさむらいでしょ!」
すると、知っている子が
「そうそう!にしむくさむらい!!」
そう言ってこぶしをかかげます。
「何それ?西の方角を向いているサムライのこと?」
教室に秘密の暗号のようなワードが飛び交いました。

 私はいい機会だと思い、この秘密の暗号について説明をしてもらおうと何人かに話を振ってみました。しかし、「知ってる!だけど、説明はできない…」とちょっと弱気になってしまう子が多い様子。それでも子どもたちは、自分が知っている情報のかけらを伝えてくれました。情報を合わせていき、「1年のなかで、31日までない月 (2月・4月・6月・9月・11月) を覚えるための語呂合わせが、“にしむくさむらい”なのだ」ということがわかったところで、先ほどこぶしをかかげた1年生のKが、口を開きました。
「こうやってね、手でグーを作って、でこぼこしてるところを指で1・2・3・4…ってやっていくと、わかるんだよ」
渾身の説明でしたが、握りこぶしにできる指の関節の突起部分を使って31日まである月とそうでない月を判別する方法を初めて聞く子には伝わっていません。この頑張りを無下にしたくなかった私は、「こぶしにできたでこぼこの端から1月、2月…と数えていって、出っ張っているところの月は31日まである月だよ」と、助け舟を出しました。すると、みんなもこぶしを出して、でこぼこを数え始めます。Kは自分の知識がみんなに伝わったのことがわかって得意気な表情です。

こぶしでその月が何日まであるかがわかると知った彼らですが、まだ完全に、「にしむくさむらい」の秘密の暗号が解けたわけではありません。
 私が「最後まで、にしむくさむらいの暗号を解いてくれる子、いる?」と聞くと、何人かの子が手をあげました。
「じゃあいっしょに!」と私が音頭をとり、数字をホワイトボードに書いてみました。
「に(2)・し(4)・む(6)・く(9)…」
このあと少し間があき、「“さむらい”ってなんだー!」と思わず叫んでしまう子、じっと考えている子、「なんで?なんで?」と連呼している子、それぞれ頭がフル回転し始めました。
「どうして11月なのに、『さむらい』なの!?」
「1は刀みたいだから、二刀流のさむらいだ」
大喜利のような回答も飛び出し、私は大笑いしてしまいました。子どもの発想はどこまでも自由でおもしろいです。

 謎が深まったところで、いよいよ種明かし。
「じゅういちを数字で書くと11。では、漢字で書くと『十一』。縦書きにすると…『士』!」
私はホワイトボードにゆっくりと「士」と書き、その字の上に「武」という漢字を付け足しました。ここでピカーンとひらめき、気づいた子がたくさん。

「武士だ!さむらいだ!!そういうことか~!」

 授業の冒頭、たった5分の出来事ですが、クラスのみんなでなぞぺーを解いたあとのような、スッキリ感を味わう時間となりました。自分の力で最後まで考えたい、解き切りたいという前向きなパワーが教室にあふれていたのです。ちょっとした漢字あそびや、日常のなかで受け継がれてきた知識や知恵に触れ、子どもたちの考える意欲は刺激された様子でした。

 だれが「にしむくさむらい」を考えたんだろう?
 どうして31日までの月とそうでない月があるの?

漢字への興味、暦への関心から、疑問があふれて止まりません。そんなきっかけが生まれる授業、子どもたち同士のかかわりを、これからも大切にしてまいります。

花まる学習会 加藤千尋(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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