ある日の年長コースの授業中、アイキューブという教具で自由に遊んでいると、Aくんが唐突に話しはじめました。横に座っていたBくんも、その話題に共感していました。
私はその2人がいままで会話のラリーを続けているところを見たことがなかったので、少し驚きました。話すとしても、アイキューブをしまうときに「競争ね!」「いいよ!」という程度だったのです。そのため、2人が話していることはとても嬉しく、そのまま聞いてみることにしました。
A 「おれ、すぐ母ちゃんに怒られる…母ちゃんのこと大好きなのに怒られる…」
B 「あ! わかる~どうして怒られるの?」
A 「お片付けしなくて怒られる~」
B 「そうそう! おれも! わかるわかる!」
私「お片付けをしようとは思うの?」
A 「思うよ。でも怒られる~」
B 「わかる~」
なんて子どもの素直な気持ちが表れている会話なのだろうと感じました。そして、子どもならではの想いに気づくことができました。それは、お母さんが大好きなのに怒られてしまうという悲しみがあること。ただ「怒られた」から悲しいのではなく、「大好きなお母さんに怒られた」ことが悲しい。それが子どもにとっての真実なのだと思いました。よく、お母さんに怒られて拗ねている子を見ます。「怒られたこと」がみんなの一番悲しいできごとなのだと思っていました。でも「大好きなお母さんに怒られた」ことが最上級の悲しみなのだと、Aくんから教えられました。
それもそうですよね。大好きな人には褒められたいし、笑顔でいてほしい。大好きな人に怒られたいわけではないし、怖い顔をしてほしいわけでもありませんよね。だからAくんは母ちゃんに怒られることに悩んでいるのですよね。そして、怒られている理由も子どもたちはちゃんとわかっています。今回のAくんは、お片付けをしていないから。でもお片付けはできない…。そんな苦悩がAくんの声に表れていました。
また、この想いは子どもあるあるなのだともわかりました。Bくんの「わかるわかる~!」という、まるで女子高生のような共感の仕方。言葉としては適当に応えているようにも感じられますが、「そんな気持ちになるよね!」ときちんとAくんの想いを受け止めていました。Bくんの話し方がかわいらしく、またAくんのお兄ちゃんのようでもありました。
大人側の視点に立つと「お片付けしなさい!」と言うことは“あるある”ですよね。そして、片付けようと思っているのであれば、片付けてよ、と。でも子どもたちは、「あ! そうだ!」とひらめくと、もうそのことに夢中です。数秒前にやっていたことは、ポーンと頭から抜けてしまいます。だからこそ、「お片付け」をすることが難しいのでしょう。
でも、怒られたいわけではないから、どうしようと悩むようです。この「大好きな母ちゃんに怒られて悲しい」という気持ちをAくんには覚えていてほしいです。そして、いつかAくんが大人になって、お父さんになって、その気持ちに触れる日が来たとき、母ちゃんを思い出して「わかる~」と共感してくれることを願っています。
花まる学習会 松浦加奈(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。