ある素敵な言葉に出会いました。
『「拭く」のではなく「磨く」のです』という言葉。意味が似ている言葉ですが、「拭く」というのは、さっとこすってほこりや汚れをとることであり、「磨く」というのは、同じところを何回もこすり、光が出るまで磨きあげること。「床を拭こう」と思うのか、「床を磨こう」と思うのか。言葉ひとつで心が変わります。行動が変わります。
とある日の年長コースの授業にて、Aくんがこう質問をしてきました。
その日の思考力問題は、立体想像の積み木を数える問題。見えている積み木だけでなく、下に隠れている積み木も想像して、数を数えていきます。1学期から少しずつ難易度が上がり、今回は、下に隠れている積み木が複数あるという問題でした。その問題を見て、「う~ん」と悩んでいるAくん。悩んでいる時間こそ、頭の中でその形を思い浮かべ、イメージする力がぐんぐん伸びているときです。しばらく手が止まったままでしたが、それでも問題から目を離さないAくんを見守っていました。そしてしばらく考えたあと、頭を上げAくんはこう言いました。「先生、まちがえてもいい?」と。
「もちろん!何回でもチャレンジしていいよ!」
と答えたのですが、その時、ふとAくんの入会当初の様子が脳裏に浮かびました。年長さんの4月。花まるをスタートした当初は、「おもしろくない…」「どうしてやらないといけないの?」「やらないとダメ?」などの後ろ向きの発言が多かったAくん。しかし、最近はAくんからそのようなことばが出なくなっていたということに気がつきました。
Aくんのなかでは、「できないかもしれない」と感じたとき、ちょっぴり不安になったとき、そんな自分を少しでも守ることができるように、傷つかないように、上記のような言葉で「間違えるよりもやらない」という選択肢を選び、自分自身の心を必死に守ってきていたのかもしれません。
花まるでは、「間違えているよ」とは伝えません。「間違い=悪いこと、正解=良いこと」といった評価ではなく、自分の頭で考えたこと、感じたことがまず大切。自分の意思をしっかりと受け止めてもらえた経験がある子は、まわりの人の想いも同じように大切にできるようになると考えています。
「なるほど、そう考えたんだ!」と考えた過程をまず受け止める。そして、正解が決まっている問題で、自力ではたどりつけなかったとしても、「いっしょにやってみよう!」「いっしょに考えてみよう!」と、提案してみます。
「考えることはワクワクすること」「たくさん考えたからこそ、わかったときは嬉しいんだ!」そんな感覚を子どもたちには味わってほしいなという願いがあります。
Aくんも、入会してから授業の中で、結果に左右されず認められる経験を経て、「やらない」のではなく「ちょっと自分で一歩踏み出してみよう」という気持ちの変化があったのでしょう。
「拭く」心から「磨く」心へ。
「磨く」心には、光り輝いてほしいという「願い」がこめられているから、行動も変わるのかもしれません。
子どもたちが持っている力を信じ、成長を祈り、言葉を大切につかえる大人でありたいと思います。
花まる学習会 樫本衣里(2021年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。