【花まるコラム】『レインボータイムの醍醐味』澤井康史

【花まるコラム】『レインボータイムの醍醐味』澤井康史

 ある日の授業でのことです。2年生のSちゃんは、なぞペーを早く解き終わりました。算数プリントや作文も終わり、授業が終わるまで時間があったので、「レインボータイム」(思考力課題)に挑戦しました。
 その日は、ワープをしながらゴールを目指す迷路の問題でした。Sちゃんは、ノーヒントでスラスラと解き始めます。

 ラストの問題に差しかかったところで、それまで順調だったSちゃんの手が止まります。なかなか糸口が見つかりません。そして何度か試したのち、「先生、もうわからない!ヒントを教えて!」と助けを求めます。それに対し、私は「もう1分、自分で粘って考えてごらん」と伝えました。Sちゃんは、また取り組み始めます。

 レインボータイムは、算数プリントや作文、なぞペーなど授業ですべきことをすべて終わった子だけが取り組むことのできる、特別な教材です。そのため、なぞペーほど簡単にヒントや答えを言いませんし、ヒントといっても本当に最低限のことしか伝えません。それがレインボータイムに取り組む者の宿命です。

 数分経ったところでSちゃんの机上を見ると、大量の消しカスがありました。「先生、もうわかんない…」と嘆くSちゃん。Sちゃんの解いたものを見ると、何度も解きなおした跡がありました。私は「いま、Sちゃんはこのルートを通っているけれど、ルール上ここは通れないんじゃないかな?」とだけ伝えて、Sちゃんのそばを離れました。ほんの少しだけヒントをもらったSちゃんは、また取り組み始めます。これが3度目の挑戦です。

 しかし、また時間が経つと「あ~、もうダメ!ここをこう行っても、次のワープするところで行き止まりになっちゃうからゴールできない。もう答えを教えて!」とまた助けを求めます。しかし、Sちゃん助けの求め方は、これまでと違っていました。 「これがこうだからできない」と、 根拠をもって「できない」と言っているのです。思いつく限りの試行錯誤をしたうえでできないと判断をしていることに、正直驚きました。
 さっき様子を見に来たときよりも、格段に増えている消しカスの量。もう手詰まりだというSちゃんの表情。さすがにもう少しヒントを、と思い、最初の2手を伝えました。もちろんそれだけでは、ゴールにたどり着けません。Sちゃんは、4度目の挑戦を始めました。

 Sちゃんは、完全に自分の世界に入っていました。そのときの集中力は、並大抵ではありませんでした。やや疲弊した表情を見せるも、「絶対に解いてやる」という強い意志を感じる眼差し。それはもう、「没頭」している目でした。

 そして、授業終了のとき。Sちゃんは、「あ~、もう…!」と悔しそうな、少しすねたような声を漏らしました。
 私は「よく頑張ったね。お疲れ様!」とねぎらいました。Sちゃんは何も答えませんでした。彼女の机の上には、これでもかと言わんばかりの大量の消しカスが散在していました。

 授業後、Sちゃんが少しすねた様子で「今日のあの問題、難しかった~」と私に言ったのち、「でもね、楽しかったよ!!」と清々しい声で言いました。Sちゃんは問題を解けなくても、たくさん考えたことに喜びを見出したのです。

 レインボータイムは、なぞペーと同じく思考力を鍛える教材です。なぞペーでは、子どもたちが「わかった!」瞬間の気持ちよさを味わい、自分でできた経験を“たくさん”積みます。それに対して、レインボータイムでは、1問にじっくり時間をかけて取り組むことができます。
 Sちゃんは次のステージに突入しているのではないか、と私は思っています。正解を求めるよりも、それまでの過程を楽しめるようになってきたのです。

 大人になっても過程を楽しめる人は、失敗をしても何度も挑戦します。何度も失敗を繰り返すからこそ、良い結果が訪れます。

 レインボータイムの醍醐味は考える過程を楽しめるところにある。そのことを、Sちゃんが改めて気づかせてくれました。

花まる学習会  澤井康史(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事