【花まるコラム】『心が喜ぶ』和田真理子

【花まるコラム】『心が喜ぶ』和田真理子

 雨の日の花まる年中クラスの授業前。先ほどまではしとしとと降っていた雨が、次第に強くなってきました。少し早く教室に着いたKくんと一緒に雨を観察。
 「K、雨はどんな音をしている?」「パチパチッておとがしてる」そう答えたあと、間髪いれずに「みずたまりに飛び込みたい!」と太陽のような笑顔で叫びました。心からのやりたいことの表現に、ぐっと彼の世界に惹きこまれ、私までいますぐ扉を開けて外に飛び出したい衝動に駆られました。
 子どもたちと過ごしていると、なんて自分の心に素直な子たちなのだろうと、彼らのキラキラと輝く姿に涙が出そうになることがあります。

 おやこクラスでも、心惹かれたことに夢中になっている子どもたちの姿を目にします。ある日のクラス後、野菜でたっぷりと遊び、手を洗いに行っていた女の子が教室に戻ってきました。のびのびと遊んだ彼女の足取りはとっても軽く、その勢いのまま靴を脱ぐと、小走りで先程まで遊んでいた水と野菜の入った水槽のもとへ。「これで終わり!」と大きな声で言うと、大きな冬瓜をぼちゃんっと水槽に落としました。自分のなかで(これで遊びを終わりにしよう)と決めたのだなと見ていると、まだ後ろ髪をひかれるようで、帰ろうとしません。目は水槽に向けられ、でも帰らないといけないことはわかっているから遊びはしない。しばらく水槽から少し離れたところでじっと立っていましたが、心を決めてお母さんのもとへ向かいました。彼女自身でどうするのか決めていく時間は、自分の心と対話をするとても大切な時間のように感じました。

 年に一度、花まる学習会の子どもたちが自分の言葉を紡ぎ出すことに集中する特別授業があります。約1時間、自分の心と対話しながら作文に向き合う日、「作文コンテスト」です。ある日、小学4年生から6年生が在籍する高学年コースでは、静かな時間が流れていました。一人、また一人と書き終えた作品を私のもとへ持ってきます。ほとんどの子が書き終えるなか、顔を作文用紙に向けたまま夢中になっている6年生の女の子がいました。書く手が止められないのでしょう、作文は4枚、5枚と続きます。授業時間すべてを使って彼女は書きあげました。「すっきりした?」と聞くと「うん!」と言って、彼女は晴れ晴れとした表情で帰っていきました。中学受験に向けた学習も進めていた彼女。その年の作文コンテストは11月にあり、受験まで残り数か月というタイミングでした。勉強量も増え、不安もあったと思います。数週間、少し曇った表情が気になっていましたが、自由に、自分のために書きあげたことで、久しぶりに彼女の心からの笑顔を見ることができました。

 何かもやもやとしているとき、感じたまま言葉を綴ったり、誰かに聞いてもらったりするなかで、自分の本当の気持ちに気づき一歩先に進めることがあります。初めての子育てで悶々としていたときに私を救ってくれたのは、誰にも見せない感じたまま言葉を綴ったノートと、信頼できる仲間でした。

 1月最初のおやこクラスに向けて、家でコマの試作をしていると6歳の長男が「ぼくも作る!」と画用紙やハサミなどを持って来て何かを作りはじめました。しばらくして「何を作っているの?」と聞いてみると「僕の心が喜ぶもの!」と一言。そこから1時間ほど手と心を動かすことに夢中になっていました。作るものは決まっていなかったけれど、「こうしたい」という心の声を聴きながら表現し、作り上げていったようです。「心が喜ぶ」という表現を彼との会話で使ったことはありません。彼の知っている言葉といまの自分を合わせたときに、しっくりきたのがその表現だったのでしょう。
 「自分がどうしたいのか、何を感じているのか」。遊びも、作品作りも、作文も…心を感じきる時間は、自分がどうしたら幸せなのかを教えてくれる。みんなの心が喜ぶ時間であふれますように。

花まる学習会 和田真理子(2023年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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