【花まるコラム】『頑張るお父さん』桂田拓弥

【花まるコラム】『頑張るお父さん』桂田拓弥

 先日、お茶の水にて親子演劇ワークショップを実施いたしました。
 今回のテーマは「おとなとこどもがともだちになる」。親子で参加しますが、ワーク中は「ともだち」として接します。ともだちとして接するうえでのルールは、互いを名前で呼ぶこと。「パパ」「お母さん」などとは呼びません。保護者同士も例外ではなく、互いに呼び捨てで名前を呼び合います。日常とは異なる、全員がともだちになった状態でのワークショップをおこないました。

 そのような特別な状況でのワークショップに、やってくる親子は緊張していたりワクワクしていたりとさまざまな表情を見せていました。そのなかで、まったく笑顔のない状態でやってきた親子が一組だけいました。1年生のMちゃんとお父さんのTさんです。緊張している様子とは少し違うMちゃん。あとになってわかったことですが、彼女はお母さんとワークショップに参加したかったのです。
 お父さん曰く、いつも「ママがいい。パパはきらい」と言われ、そのたびにお父さんは怒ってしまうという流れの繰り返しだったそうです。お父さんに連れてこられ、来る前にもケンカをしてきたMちゃんは、少し不機嫌そうな様子でワークショップに参加しました。ムスッとした表情のMちゃんとお父さん。二人で息を合わせて楽しめるだろうか、と私自身も不安を感じていました。

 最初のプログラムは「いわとり」。体を動かすための準備運動も兼ねて、その場走りをしながら見えない岩を飛び越え、 見えない鳥をしゃがんで避ける、エア障害物走を行いました。最初のゲームということで体が温まっていなかったり、恥ずかしさもあったりと、子どもたちは固い動きしかできていませんでした。そんな雰囲気を壊してくれたのは、Mちゃんのお父さん、Tさんです。誰よりも全力でジャンプし、撮影していたカメラの画角から フレームアウトするほどの躍動っぷり。開幕から良い動きをしていたお父さんはまわりから「T、すごい!」と称賛を受けていました。その後のプログラムにも全力で参加し、演じるTさん。周囲から褒められ続けるTさんの姿を誰よりも嬉しそうな表情で見ていたのは、Mちゃんでした。その喜びの表情からは、パパに対するマイナスな感情はまったく見られません。そのとき彼女にとって、Tさんが自慢のお父さんへと変わりました。Mちゃんも「負けてはいられない」と言わんばかりの勢いでワークショップに参加し、動きも変わっていきました。

 最後のプログラムは「親子それぞれが別の国に住み、十年ぶりに再会する」という演技です。船を作り、海を渡り、無事に再会したMちゃんとお父さん。大きな声で互いの名前を呼び合い、抱擁する姿が見られました。朝の険悪な親子の姿はそこにはもうありません。二人の変化を目の当たりにして、目頭が熱くなりました。
 ワークショップが終わったあと、Mちゃんが書いた感想用紙には以下の言葉が残されていました。
 『ままがいいといってないてきたけど、けっこうたのしかったとおもっています。ふたりでつくるえんぎがおもしろかったです。』

 大人が見せるの全力の姿勢には、子どもの心を大きく動かすほどのエネルギーが宿っているのかもしれません。大人の本気の姿は、子どもたちの心に「楽しい」以上のさまざまな想いを育んでくれるのだろう。そう思えた一日でした。

花まる学習会 桂田拓弥(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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