【花まるコラム】『位置について、よーい…』柴健太

【花まるコラム】『位置について、よーい…』柴健太

 先日、1年生Yくんのお母さまより、おもしろいお話が届きました。

くり上がりのたし算はまだですが、突然「5たす6は11!?」と言い出しました。「なぜなら、5たす5は10でしょ?6は5のとなりだから、こたえもとなりになるかなーって」と毎日サボテンをやっているうちに数がしみこんできたようです。

 花まる学習会では、小学生は計算教材「サボテン」に取り組みます。毎日コツコツ取り組むことで、計算力と学習習慣を身につける教材です。1年生はこの時期に繰り上がりのない足し算を学んでいます。
 5月のおたよりでもとりあげましたが、サボテンのテーマは「自分との勝負」。授業では「よーい、はじめ」の声で解き始め、その空気は真剣そのもの。4月にはそんな空気のなかで「どうやるの~?」「先生!終わったよ!」と声をあげていた1年生たちですが、一言も発することなく見直しをする子が増え、少しずつ自分との勝負に目を向けられるようになってきました。

 さて、冒頭のYくんの話に戻ります。
 この時期にすでに繰り上がりの計算ができる1年生は、一握り。花まるではもちろん、学校でもまだ扱わない単元です。Yくんもまだ習っていないのですが、演習を繰り返していくなかで、徐々に繰り上がりのない足し算の組み合わせには限りがあり、増える数にも決まりがあることに気づき、「繰り上がりの足し算」という未知の世界にたどり着いたのでした。
 自分で気づいた学びは、教えてもらって学んだものとは理解の深さや前向きさの次元が違います。きっと彼は「本当に11だ!じゃあ、5+7は12、5+8は13かな?」と自ら数の世界を進んでいくことでしょう。

 子どもたちと接していると、1年生の子が「九九覚えたよ!」と言ったり、2年生の子が「割り算までできる!」と言ったりする場面に出会います。こうした「先取り」はよくないことのように言われることもありますが、先述の子どもたちの表情は、自信にあふれています。先取りをするかしないかではなく、「その子がいま、その学びを受け取れる状態か」を見定めるべきである、と子どもたちを見ていて感じます。
 つまり、一番大切なことは、意欲をもってやれているかどうかです。Yくんのような数への興味や、もっとやってみたい!という気持ちから取り組む「主体性のなかでの先取り」には、大きな価値があると考えているのです。

 学習の成立に必要な、前提となる知識や経験、意欲などを「レディネス」と表現することがあります。直訳すると「準備」といった意味があるこの言葉は、教育心理学分野では「学ぶ準備が整った状態」を指すものとして使われています。
 挨拶も、学びを受け取る姿勢を整える「レディネス」を作るというねらいがあります。年中長で線をなぞる運筆をするのも、思い描いた通りに手を動かす力、言い換えると自由自在に書けるようにするという「レディネス」のひとつです。
 「レディネスを作る」と一口に言っても、子どもによって得意なことや興味のあることが違うように、いつその器ができるのかも一人ひとり違います。また、発達段階や特性も考慮しないわけにはいきません。だからこそ、その子のいまの状態の見極め、自分で器を作れるようにサポートすることが重要であり、それが私たちの役目だと考えています。

「4+6」のようにどちらも5のとなりの数ではあるが合計は「11」ではない式にぶつかって、なんでだろう?と頭を悩ませていました。

 これは、翌週のYくんのお話です。5+6は11、4+6は11にならないということは、知識をもっている私たちからすれば当たり前のことなのですが、繰り上がりの足し算を知らないYくんが発見した、新たな不思議です。
  「位置についた」Yくんは、どこまで数の世界を駆け抜けていくのでしょうか。 小さな数学者の誕生です。

花まる学習会 柴健太(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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