先日の授業で、学期に一度のHIT(花まる脳力テスト)と花まる漢字テストをおこないました。
入会したばかりの1年生Aちゃんにとっては、今回が初めてのHITです。来週がテストだということを伝えると、不安そうな表情を浮かべていました。HITの3日前には、「カタカナを覚えきれず、点数が取れないとわかり受けたくないようです」というメールをお母さまからいただきました。しかし、入会当初と比べると、文字の認識も、読むスピードも、確実に成長しているのです。今回のHITに挑戦すること自体が、Aちゃんが自分自身の成長を実感するためのものになると思い、どうにか来てもらえるよう背中を押してほしい、と返信しました。
普段の授業で、問題文を指や鉛筆でなぞりながら、時間をかけて読み進めているAちゃん。カタカナが出てくると、カタカナ表を見て毎回自分で確認しています。一度で理解できないときには、首を傾けて悔しそうな表情を見せることもありましたが、決して諦めず、講師と一緒に何度も読み返す場面を見てきました。転写教材「あさがお」の宿題には、お母さまが一文字一文字に書き順を記してくださり、毎日丁寧に取り組んできていました。教室での「あさがお」の時間では、もっと丁寧に書ける字がないかを探し、時間いっぱい書き直しをする徹底ぶり。さらには、HITに向けて、ご家庭で毎日カタカナドリルにも取り組んでいたのです。
ここまでコツコツと努力することは、簡単ではありません。お母さまの熱心なサポートもあり、確実に成長していきました。しかし、「読めるようになってきたね」と声をかけても、どこか自信がなさそうなAちゃん。本人が成長を自覚しなければ自信にはつながらないと思いました。あとは、HITの日に彼女が来てくれることを信じて待つだけです。
そしてHIT当日、Aちゃんは教室に来ることができたのですが、いつもの元気な挨拶はなく、不安でいっぱいのようでした。テストが始まると、問題を自分で読み進めるAちゃん。少しでも理解できない文章があると、首を傾けながら「助けて」と訴えるような目で私を見てきました。緊張と不安で、さらに自信がなくなっているように思えました。しかし、これまで努力を積み重ねてきた彼女なら理解できるはず。私はグッドサインとともに、「できる」というメッセージを込めた頷きを返しました。すると、彼女もそれにこたえるように大きく頷き、再び文章を読み始めました。
テスト中、同じような場面が何度かありましたが、私が文章を代わりに読んであげる必要はありませんでした。いつものように、一文字一文字丁寧に読み進めたAちゃんは、文章の意味を確実に理解し、問題に答えていったのです。
HITが終わったあとのAちゃんは、緊張と不安から解放され、伸びをして笑顔を見せていました。「自分の力で読むことができたね!」といつものように声をかけたあと、「それはなんでだと思う?」と聞いてみました。すると「知っている字が出たの!」とAちゃん。運がよかったから問題を読めたのではないよ、と私は心のなかで思いました。「Aがこれまでたくさん頑張ってきたからじゃないかな」と伝えると、「うーん、あさがおのおかげかも!」と、初めて肯定的な返事をしたのです。お母さまとも喜びを分かち合い、Aちゃんの自信はここから積みあがっていくと確信しました。
Aちゃんが言った「知っている字」は、以前の彼女は知らなかった字です。カタカナを見ても読み方がわからなかったのに、いまでは書けるようになっているということは、紛れもない成長です。
子どもたちは、さまざまな成長を意識の外に置き去りにしてしまうくらいに日々を全力で生きています。だからこそ、時には立ち止まって、成長を実感できる機会をもてるようにしたいと思っています。その積み重ねが、子どもたちの自信につながると信じています。
花まる学習会 土方日向(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。