【花まるコラム】『愛をこめて花束を』任田謙介

【花まるコラム】『愛をこめて花束を』任田謙介

 小っ恥ずかしい…言うに言われない、なんとなく恥ずかしい気持ち。私にとって、まさにそんな小っ恥ずかしい気持ちになる場所があります。花屋です。
 先日は、母の日でした。私の母は新潟の実家に一人で暮らしています。高校卒業までの18年間は当たり前のように毎日顔を合わせていたわけですが、それ以降は会う機会といえば、お盆と年末年始の数日間だけになりました。だからこそ、母の日は大切にしたい気持ちがあるのですが、そこに立ちはだかるのが花屋です。きっとこれは男性全般に言えることなのではないでしょうか。母のため、店内にどんな花があるのかをもっとよく見たい、最近はどのようなものが好まれているのかも知りたいのですが、俯瞰したとき、店と不釣り合いな自分を感じてしまい、「買う物だけ買って早く立ち去りたいモード」になってしまいます。爽やかな笑顔で話す女性の店員さんに圧倒されながら、「じゃあ、それで」と花を選び、郵送の手配を進めていきました。合わせて、一言メッセージを書き込めるカードも手渡され、「そちらの色鉛筆もご自由にお使いください」と言われるも、「使えるわけないでしょ」と心で呟き、真っ黒い鉛筆を握りました。ここでも時間をかけすぎるわけにはいきません。しかし、直接母が受け取るものなのだと思うと、いままでよりも少しだけ落ち着いた気持ちでいることができました。

「母の日、ありがとう。
いつまでも元気でいてください。
私も元気でやっています」

 結局、ササッと書いてできあがったのは当たり障りのない文章。読まれたら恥ずかしいという気持ちから、店員さんには裏面にして渡すまでがセットです。お店を出てしばらく歩くとそれまで火照っていた体がゆっくりと冷めていくのがわかりました。たったこれだけのことに、これほどまでに疲れるとは、男とは哀れな生き物です。
 思い返すと、ある年の西郡学習道場の日曜特訓で、子どもたちが「母の日川柳」を作ったことがありました。元気いっぱいの4年生のなかで、ひときわ目立つ生徒がNくんでした。彼はすぐに頭に血が上るタイプ。ことあるごとに怒り、些細なことで言い争いを始めるわりには、先に涙目になるのはいつも彼でした。しかし、「ねえねえ、クイズだよ」とケロリと元に戻る一面も併せもっていて、幼くて手はかかりますが、とてもかわいい男の子。あいさつもきちんとでき、近所のおばあさまたちにも大人気でした。
 そんな彼が最初に作った川柳がこちら。

「お母さん 犬のおせわ がんばって」

感謝ではなく依頼だったので、趣旨を説明して再度書くことに。そこでできあがったのがこの二句でした。

「お母さん 育ててくれて ありがとう」
「お母さん 何がいいかな プレゼント」

とても気持ちのこもった川柳になったのでした。その後、自分でクーピーや色鉛筆を使って綺麗に彩り、こちらが仕上げにラミネートで整え、作品が完成しました。
 後日、Nくんのお母さんに電話をすると、母の日の夕方、Nくんは、お父さんとプラモデルを買いに行くと告げて出かけ、自分のお小遣いでお母さんにブーケをプレゼントしたとのことでした。「高2と中2の兄がいますが、3人の中でこんなことをしてくれたのは、あの子だけですよ!」と、とても感激されていました。
 そのときは、私も改めて感じられたNくんの素敵な一面に心が温かくなりました。同時に、母の日に向けて自分のとった行動を顧みると、母への感謝を純粋なまでに行動に移せるNくんに「参りました!」と言わざるを得ない思いでした。相手に、素直にまっすぐに感謝を示すことの素晴らしさ、大切さ。そんなことをNくんから教えてもらいました。 
 ちなみに、私の母からは後日、以下のメールが届きました。母からの励ましも胸に、大事なお子様をお預かりさせていただきます。何卒宜しくお願いいたします。

「母の日のお花受け取りました!アタシの帰りが遅くなかなか受け取れませんでしたが、冷蔵庫に入っていたそうで、綺麗です!ありがとうございます。 謙介さんも身体に気をつけて、頑張ってください!」

スクールFC 任田謙介(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員のみなさまにお渡ししています。

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