長かった夏休みもあっという間に終わり、新学期が始まりました。みなさまにとって今年はどのような夏でしたでしょうか?教室では子どもたちが我先にと夏の思い出を報告してくれます。それを聞くのが私にとっての楽しみでもあります。
さて、私は専ら花まるグループの野外体験「サマースクール」に引率リーダーとして参加していました。教室では「しゅうへい先生」ですが、野外の現場では「バッシー」というニックネームで呼ばれます。サマースクールは活動内容によってさまざまなコースがあり、対象学年も年長、1年生~、4年生~などと決まっています。かの有名な無人島コースは6年生以上が対象でした。
私が最も多く参加したのは「ドキドキ年長王国」というコース。小学生からは異学年混合の縦割り班が通常ですが、年長コースは同年齢の子たちだけ。宿泊日数も一泊二日と短く設定されています。「朝に出発して、翌日の昼過ぎには帰る」言葉にするとそれだけですが、そこには小学生たちに負けず劣らず無数のドラマがありました。特に今年はコロナ禍の影響もあってか、「お泊まりが初めて」という子の割合が多いようにも感じました。お泊まりが初めてなら、布団にシーツをかけるのも初めて。割り箸を割る、大浴場で頭を洗うなど、とにかく「初体験」の連続です。川遊び、魚つかみ、虫とり、キャンプファイヤー、花火といったキャンプならではの野外活動に胸を膨らませて来る子どもたちですが、宿内でも数々の挑戦が待っているのです。そういった壁を、班のリーダーにサポートしてもらいつつ乗り越えていきます。こういった経験が「できた!」という自信にもつながります。
特に印象深いのは「おかわり」の機会。現在は手指消毒をした大人がおこなっていますが、以前はごはんのおかわりも立派な経験ということで、子ども自身でおこなっていました。思い出すのはある男の子。炊飯ジャーの重い蓋を両手で開け、しゃもじを握ります。お釜から粘りのあるごはんをすくうのは意外と力がいるようで、グッと力を込めます。するとピョーンと宙を舞うライス。床にこぼしてしまったお米はリーダーと一緒に片付けます。こうしてようやく手にした銀シャリを誇らしげに食べていました。「おうちに帰ったら、家族みんなのごはんは僕がよそうんだ」と彼は言っていました。
就寝時間が近づいてきた頃。部屋を見回りしていると、男性リーダーから助けを求められました。そばにいるのは上半身パジャマ、下半身パンツ姿の男の子。その姿を見て「おもらしかな?」と直感しましたが、そうではありませんでした。リーダーから話を聞くと、
「Aくんがおむつを穿きたくない、パンツのまま寝たいと言っています。どうしましょう…?」
とのこと。就寝時におむつを穿く必要のある子は事前に保護者の方から申し受けており、我々にとっては守らねばならない「約束」です。しかしAくんの気持ちを考えると、無下にはしたくないもの。「パンツのまま寝たい」という彼の発言は成長であり、挑戦にほかならないからです。「(実際にはそんなことはないのですが)ぼく以外の子はおむつを穿かずに寝ている。だから、ぼくも卒業するんだ…!」
班リーダーも私も悩みました。Aくんの希望を尊重するか、保護者との約束を優先するべきか。悩んだうえで、
「Aの勇気、伝わったよ、絶対に忘れない。今日を『おむつ最後の日』にしよう。おうちに帰ったら明日からは卒業だ。Aと○○との約束」
おむつが保護者との約束であることも含めてこう伝えると、Aくんは深くうなずきました。別室へ移動し、穿き替えます。何か心に響くところがあったらしく、彼の目には涙が溜まっていました。私もあとでこっそり泣きました。
おむつ一枚、お茶碗一杯、バッタ一匹、ラムネ一粒にも隠れたドラマがあり、成長があるのが花まるの野外体験。次回の雪国スクールがいまから待ち遠しいです。
花まる学習会 石橋修平(2022年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。