【花まるコラム】『 “学ぶ”ということ 』出井真理

【花まるコラム】『 “学ぶ”ということ 』出井真理

 先日の年中授業では、磁石を使った思考実験をおこないました。大人の私たちは大抵、磁石がくっつくのはどのような場所かを予想することができます。それは、磁石がどういうものなのか、これまでの経験から知っているからです。一方で、年中の子どもたちはまだ、磁石というものに触れる経験はそれほどたくさん積んでいません。
「この教室のなかで、どこに磁石がくっつくのか試してみよう!」
そう声をかけると、まずは自分の座っている椅子に磁石がくっつくことを発見しました。
「くっついた!」
ヒュインと磁石が椅子のほうに吸い込まれる感覚がおもしろく感じた様子で、何度もくっつけては離し、くっつけては離し、と繰り返していました。すると今度は、自分の座っている椅子とは別の椅子に試しに行きます。
「…!!くっついた!」
また別の椅子にくっつくのかを試して「くっついた!」と、いろいろな椅子にくっつけて回っていきます。大人からすれば、すべて同じ種類の”椅子”なのだから、どれにでもくっつくのは当たり前と考えます。しかしいろいろな椅子に磁石をくっつけて回る子どもたちの姿を見ると、彼らが見ている世界はどうやらそうではなさそうです。子どもたちはきっと”椅子”というカテゴリのなかの1つとして捉えている訳ではなく、これはこれ、それはそれ、あれはあれ、とすべてのものを別物として捉えている、つまりはまだ物事を抽象化するまでに至っていない状態だということに気がつきます。
 次に実験したホワイトボードでも、左端にくっつけては「くっついた!」、真ん中にくっつけては「くっついた!」、ホワイトボードの裏にくっつけては「くっついた!」と、それぞれ試していきます。
 そんな子どもたちが実験を始めて20分くらい経った頃、ある子が「つるつるしているところにはくっつくね」と、これまでの実験結果からの考察を始めました。するとある子は「ぎんいろのところにはくっつくよ」と発言。 子どもたちなりに目の前で起こったことの共通項を見つけ出し始めました。
 30分間、磁石をひたすらくっつけに回った子どもたちは、それぞれが自然と思考をし始めていました。こうして実体験を経て、「つまりはこういうこと?」と考察を重ね、それを繰り返すことで初めてそのものを「理解する」に至るのだと思います。これが“学び”のサイクルですね。

 高学年クラスの子どもたちを見ていても、同じようなことを感じました。
 授業で扱った例題の、数字を変えた類題に取り組んだときのことです。大人の私たちは「数字が変わっただけだから簡単だ」と思ってしまいますが、彼らにとってはその類題が、まるで初めて見たものかのように感じているようでした。先ほど取り組んだ例題といま取り組んでいる類題は、まったくの別物であると認識しているのだと推測できます。
 そんな彼らも、何問か演習を重ねていくと、段々と解けるようになっていきます。その単元の問題を解く経験を繰り返すうちに「つまりこれはこういうことね」とその単元の学習を理解することができるようになる。これが、“学ぶ”ということなのでしょう。

 一つひとつの実体験から理解を深め、さらに実体験を経て理解のレベルをあげる。こういう経験を何回繰り返せるかで理解の精度が上がり、より質の高い“学び”に繋がっていきます。子どもたちは日々の生活のなかで、たくさんの経験から思考し、学びを得ているはずです。私たちは答えを出すことを急かすことなく、自ら学びを獲得する様子を見守ってあげたいものです。

花まる学習会 出井真理(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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