図書館や書店で行われる読み聞かせのイベントに行ってみると、キャラクターごとに声音を大きく変えたり、役者やアニメの声優のように、実に情感たっぷりに語ったりする方を見かけます。なかには、指人形やパペットなどで子どもの興味を引いたり、大げさな動作や効果音で笑いを誘ったりする場面もあります。
そうしたものを目にして、「家でもあんなふうに読み聞かせないといけないのかしら?」と心配になるお母さんもいるようです。
しかし、本を読むというのは決して「ショー」ではありません。あくまで、ひとつの物語の世界に浸ってさまざまなものを感じ、味わうという行為です。あまりにも過剰な演出を加えると、物語そのものよりもそちらのほうが気になってしまい、話に集中できにくくなるのです。
結論としては、読み聞かせはあくまで「自然」が一番。心をこめて読む必要はありますが、過剰な演出は不要ですし、声音を無理に変える必要もありません。
私自身、子どもたちに読み聞かせをするときは、感情的な場面であってもあえて淡々と読み進めるようにしています。あくまでも物語の「黒子に徹する」というイメージです。そしてそのほうが、子どもが物語のなかにスッと入っていけると実感しています。
■自ずとその本にふさわしい語りになる
少し話は変わりますが、スタジオ・ジブリの映画では、ときどき非常に落ち着いた声質の、ある意味プロの声優さんと比べると明らかに「棒読み」の人が声をあてることがあります。『となりのトトロ』のお父さん役の糸井重里さん、『風立ちぬ』の堀越二郎役の庵野秀明さんなどは、抑揚を抑えた極めて淡々とした語り口です。しかし、それがかえって観る人を物語に引き込むような、独特な存在感のある声として感じられます。
かつて放送されていたNHKのドキュメンタリー番組『プロジェクトX』なども、田口トモロヲさんのあえて抑制のきいた語りを起用することで、見る人を引きつけることに成功していました。
しかし、だからといって極端な「棒読み」で、感情をまったく入れずに読むのは逆効果!読んでいる人が単なる義務感から、無理をして無感情に読み聞かせをしていると、それはすぐに子どもに伝わってしまいます。
読み聞かせをする人自身が、その本を読んで受けた感動や幸福感を思いだしながら読むようにすれば、自ずとその本にふさわしい「自然な語り」となります。
スクールFC 平沼純
🌸著者|平沼 純
教育心理学を研究し、「自分の視点を持って考え、力強く生きていく力の育成」を目指して教育の世界へ。国語を専門とする学習塾で読書・作文指導などに携わったあと、花まるグループに入社。現在、小学生から中学生までの国語授業や公立一貫コース授業のほか、総合的な学習の時間である「合科授業」などを担当。多数の受験生を合格へ導くとともに、豊かな物語世界の楽しさ、奥深さを味わえる授業を展開し続けている。
■著書紹介
『子どもを本好きにする10の秘訣』(実務教育出版)
著者:平沼純・高濱正伸