子どもたちの何気ないつぶやきの数々を収めた、『あのね 子どものつぶやき』と続刊『ママ、あのね。子どものつぶやき』(ともに朝日新聞社編)。子どもたちの思わずくすっと笑ってしまうような意外性のある言葉、他愛もない言葉が多く紹介されている、実に魅力的な本です。
ビターチョコを食べたお兄ちゃんが「大人の味がする」「大人を食べたことあるの?」
(神奈川県鎌倉市 8歳)
最近なんでもまねをする。体重計にのってママのまね。「やばーい」
(神奈川県川崎市 2歳)
七五三のスーツを買いに行くと、半べそに。「まだ はたらきたくない」
(兵庫県尼崎市 5歳)
しかし中には、多くの大人が失ってしまった子どもならではの感覚、世界の見方を表していて、はっとさせられるような言葉も多く載せられています。
ゴミ捨てのときは必ず、「ゴミー いってらっしゃーい 気を付けてね」
(神奈川県三浦市 3歳)
セミが1匹死んでいた。ほかのセミが周りで鳴いている。「このセミが死んで かなしいから 泣いてるんやね」
(兵庫県神戸市 3歳)
青空に昼の月を見つけて、「お月さん 帰るの わすれちゃったんだね」
(茨城県下妻市 2歳)
人間だけでなく、動物や植物、石ころ、月や太陽、時には「ゴミ」まで…!子どもたちの目には人間だけでなく、生きとし生けるものはもちろん、生命を持たないものまでが確実に存在し、自分とつながりのある「仲間」としてはっきり認識されているのです。
それは、子どもが自分とあらゆるものとの間につながりを見出せる存在であることを示しています。
日本を代表する哲学者であった鶴見俊輔氏は、子どもたちは大人と違って「神話的時間」を生きていると表現しました(参考:鶴見俊輔『神話的時間』熊本子どもの本研究会)。
論理や言葉に支配された「近代的時間」を生きている大人と違って、子どもたちは世界を切り取るための言葉や論理的思考が未発達。しかしその分、よりゆるやかで感覚的、身体的な時間感覚を生きています。言ってみれば、子どもたちは人類がまだ言語を獲得する前の、「神話の時代」の時間感覚を生きていると言えるのです。
家で子どもと過ごす時間が増えると、その独特な時間感覚に、時にもどかしさを感じてしまうこともありますね(実際多くのアンケートで、お母さんたちが家で子どもたちにかける言葉の一位は、「早く~しなさい」だそうです)。
しかし、時が経つのも忘れて何かに没頭したり、大人目線では「取るに足りない」と思われるものでも極めて大切にしたり、時に現実を「ファンタジー」に見立てたり…。それらは、子どもだからこそ持つことができる豊かな感覚の表れでもあります。
子どもと過ごす時間とはそのような感覚にあふれ、充実した気持ちや不思議な懐かしさを感じることのできる、特別な時間ともなり得るのです。
そしてすぐれた子どもの本は、そのような子どもならではの世界の見方、神話的時間の感覚を見事に表しています。想像の世界の友達と遊ぶ男の子を描いた『もりのなか』(M.H.エッツ)。一切の言葉が省かれた美しい「かいじゅうおどり」の場面が印象的な『かいじゅうたちのいるところ』(M.センダック)…。子どもたちとこのような本に触れることは、大人もかつて持っていたであろう、それらの感覚を取り戻すことにもつながるのです。
一年間にわたってお届けしてきた「読書の旅」コラムは、これにて終了です。ぜひ、これからも子どもの本をひも解き、自分もかつて持っていた神話的時間を思い出すとともに、ひととき言葉や論理の縛りから解放された豊かな時間感覚を、子どもたちと一緒に味わってください。
スクールFC 平沼純
🌸著者|平沼 純
教育心理学を研究し、「自分の視点を持って考え、力強く生きていく力の育成」を目指して教育の世界へ。国語を専門とする学習塾で読書・作文指導などに携わったあと、花まるグループに入社。現在、小学生から中学生までの国語授業や公立一貫コース授業のほか、総合的な学習の時間である「合科授業」などを担当。多数の受験生を合格へ導くとともに、豊かな物語世界の楽しさ、奥深さを味わえる授業を展開し続けている。
■著書紹介
『子どもを本好きにする10の秘訣』(実務教育出版)
著者:平沼純・高濱正伸
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