子どもたちのために本をつくるときにこそ、なににもまして、洗練された美意識と最高の技術と入念な心配りが必要とされる。残念ながら、このことはこれまでなおざりにされてきた。まるで、子どもにはつまらないガラクタもので充分だとでもいうように。なんという愚かな、ひどい考え違いだ! 感受性の鋭い子どもたちの目や耳には、一番美しいもの、一番混じりけのないほんもの、一番良きものを供するべきである。
(『コールデコットの絵本 解説書-現代絵本の扉をひらく―』ブライアン・オルダーソン 監修・解説/福音館書店収録)
子どもたちに可能な限り「良い本」を読んでもらいたいというのは誰もが思うこと。では、そのような「良い本」の共通点とは何でしょうか? 私は、次の3点にまとめることができると考えます。
①普遍的で強いテーマを持っている
②子どもを引きつける強いストーリー性や世界観を持っている
③言葉と絵が考え抜かれている
私がよく読み聞かせで使う本のなかに、イギリス各地の昔話を集めた『イギリスとアイルランドの昔話』があります。長いときを経て洗練されたシンプルな言葉選び、石井桃子さんによるテンポのよい訳文が魅力です。
■これがあの『三びきの子ブタ』!?
そのなかに、あの『三びきの子ブタ』も収められています。これを読み聞かせてみると、自分たちが知っていた『三びきの子ブタ』とのイメージの違いに、「えっ!?」と驚く子も多くいます。
原話では、三びきの子ブタたちには母親がいて、家に食べ物がなくなったため、「自分で働いて食べていきなさい」と三びきを世の中へ出してやるという設定になっています。
そして、長男ブタは町で会った男の人にワラを出してもらってワラの家を、次男ブタはハリエニシダの木の家を作ります。
簡易版の絵本やアニメのほとんどでは母ブタの存在がカットされていて、子ブタたちはなんの脈絡もなく家を建て始めます。
しかし、「食べ物がなくなって世の中に出される」という設定があることで、家を建てるという行動に必然性が生まれるのです。
ちなみに、この本の挿絵で描かれている母ブタと三びきの子ブタは、余分な描写が一切排除された、かなりリアルなブタの姿です。それが逆に、このストーリーにうまく寄り添って、物語世界をイメージする手助けをしてくれます(同じく福音館書店から出ている絵本版の、レズリー・ブルックによるイラストも非常にすばらしいです。『金のがちょうのほん』収録)。
さらに、原話では長男ブタと次男ブタがオオカミに食われてしまい、三男ブタがあの手この手でオオカミを出しぬきます。そして、最後にはオオカミをナベで煮て、晩御飯にして食べてしまいます。
まさに、「生きるか死ぬか」というスリルとすごみが感じられるストーリーです。
この話を聞いた子どもたちは、たたみかけるように展開していく魅力的なストーリーに引きこまれながら、心の奥底では「自分の知恵を使って困難を切りぬけて、厳しい世の中を生きていかなければならない」という力強いメッセージを、漠然とでも感じ取ることができます。
不必要にデフォルメ化されたブタやオオカミたちのドタバタ喜劇と化してしまったものからは、このような心の引っかかりは生まれません。
このように、子どもが思わず引きこまれるようなストーリーのなかに普遍的で力強いテーマが織りこまれ、そのテーマを考え抜かれた言葉とイラストで表現した本こそが、感受性豊かな子ども時代にぜひとも読んでもらいたい本です。
スクールFC 平沼純
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