【読書の旅コラム❻】『子どもの本で「グルーミング」の時間を』平沼純 2021年7月

【読書の旅コラム❻】『子どもの本で「グルーミング」の時間を』平沼純 2021年7月

 昨年からの世界的なコロナ禍以降、私たちの生活はあらゆる面で大きく様変わりしてしまいました。しかしそれと同時に、家の中で家族と過ごす時間も増え、「自分にとって家とは何か」「子どもと過ごす時間はどうあるべきか」など、少し立ち止まって考えるようになったという方も多いのではないでしょうか。

 動物学者で優れた児童文学作家でもある河合雅雄さんによる『子どもと自然』(岩波書店)の中に、「グルーミング」という考え方が紹介されています。これは動物、特に霊長類でよく見られる毛づくろい行動のこと。動物園のサル山などで、よくサルたちが寄り集まってのんびりとお互いに毛づくろいなどをしている様子が見られますが、まさにそれがグルーミングです。
 このグルーミングは動物たちにとって、穏やかな雰囲気をつくって精神の安定を図るために大切な行動であるとされていますが、それは私たち人間にも言えること。どんなに文明化された社会で生活しているとはいえ、やはり私たちはまだまだ自分の中に「自然」を多く残しています。情報化が進み、生身の人間同士のつながりが失われてしまいがちな今だからこそ、家族のグルーミングの時間を取り戻し、「ありふれた日常性」を回復させることが必要であると、河合さんは力説しています。
「私は今まで、家族が集まったときは《みんなで何かためになることをしなきゃ!》と思いすぎていたかもしれません。私は編み物をして、夫は新聞を読んで、息子や娘は本を読んだり塗り絵をしたり……。そんな《何をするわけでもない穏やかなグルーミングの時間》をもつのが大切なんですね。」
 これは、以前とある講演会で「グルーミング」の話をした際、一人のお母様がアンケートに書いてくださった感想の言葉です。
 人間は他の動物とは違い、直接肌を触れ合うという行動がなくても「言葉でもグルーミングができる」存在です。そのための一助として、時をこえて受け継がれている子どもの本を是非生かしていただければと思います。本を通して家族の対話が生まれたり、本にまつわる懐かしい記憶がふとよみがえったり……。きっと、家族の豊かなグルーミングの時間が生まれることと思います。
 具体的にどんな本がおすすめなのかは、拙著『子どもを本好きにする10の秘訣』(実務教育出版)や、インターネット上の本専門サイト「honto」ブックツリーなどを参考にしてくださいますと幸いです。イギリスには「三世代続いたものでないと本物とは言えない」ということわざがありますが、時の試練を乗り越えてきた数々のロングセラーに加え、新しくてもこれから長く読み継がれていくと、自信をもっておすすめできる本を多く紹介しています。

 そして、今年5年目を迎え、今は毎月オンラインで開催している連続講座「旅する読書」も、是非おすすめです!毎回さまざまな子どもの本を取り上げ、それらが描いてきたものや投げかけてきた問い、子どもの成長を考えるヒントなどを広く紹介するオンライン講演です。おかげさまで毎回全国からたくさんの方がご参加くださり、特に土曜日の回は子どもたちの参加も増え、好評をいただいています。
 本の紹介だけでなく、素敵なゲストに知る人ぞ知る短編小説や民話などの朗読劇を披露してもらったり、科学や歴史などに関するおもしろ講座を開いたり、登壇者全員で和服を着て怪談話を語ったり…。奥深い物語の世界が味わえる心躍る時間を、ぜひご期待いただければと思います。

スクールFC 平沼純


著者|平沼 純 井岡由実 教育心理学を研究し、「自分の視点を持って考え、力強く生きていく力の育成」を目指して教育の世界へ。国語を専門とする学習塾で読書・作文指導などに携わったあと、花まるグループに入社。現在、小学生から中学生までの国語授業や公立一貫コース授業のほか、総合的な学習の時間である「合科授業」などを担当。多数の受験生を合格へ導くとともに、豊かな物語世界の楽しさ、奥深さを味わえる授業を展開し続けている。

■著書紹介
『子どもを本好きにする10の秘訣』(実務教育出版)
著者:平沼純・高濱正伸

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※回によって内容は異なります

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