2025年度の花まるサマースクール、現場からのレポートをお届けします!
今回は、「カトパンと行く!究極の野外体験 無人島サバイバル」のコースを引率した「カトパン」のレポートです。
1日目、子どもたちは広島の平和記念公園と原爆資料館を訪れました。いまは静かに広がる芝生の公園。でもかつてそこには1500軒もの家が立ち並び、6000人が暮らしていたことを知ったとき、「ここに人々の生活があったんだ」と、子どもたちは知識としてではなく、想像の力でその景色を思い描いていました。
原爆資料館では、焼け焦げた学生服、黒く変色した弁当箱、髪の毛が抜け落ちた子の写真など、言葉にできないほどの悲しみと向き合いました。自分と同じ年頃の子どもたちが経験した出来事を前に、「もし自分だったら」と想像しながら、静かに、そして真剣に見つめていました。
その後の被爆体験講話では、宇佐美さんが語ってくださった言葉が、子どもたちの心に深く刻まれました。3歳のときに被爆し、長年差別や偏見を恐れて語れなかった記憶を、勇気をもっていまこうして伝えてくださった宇佐美さんの姿に、子どもたちは真剣な眼差しで向き合っていました。
「平和って何だと思いますか?」という問いに対し、宇佐美さんはこう話してくださいました。
「平和は……『こんにちは!』『いってらっしゃい!』『おかえり!」『あらまあ、今日はきれいだね!』と言えるのが平和。戦争をしていたら、そんなこと言えない。ただただ、それだけ」
いま、私たちの暮らしのなかにある何気ない言葉の数々。それが実は平和そのものであることを、宇佐美さんは教えてくださいました。
また、「核兵器はなくなると思う?なくならないと思う?」という宇佐美さんからの問いに、「核兵器はなくなる」に手を挙げたのは2名でした。それに対して宇佐美さんは、強いまなざしでこう語ってくださいました。 「私は無くなると信じています。そのために皆さんにお話をしているの。信じてみんなで努力しないといけない。核兵器は人間がつくり出したものなのだから、人間の力で廃絶できないわけがない」
また、宇佐美さんのお話に加えて、佐々木貞子さんの物語も子どもたちの心に強く残ったことと思います。原爆による白血病で12歳という若さで命を落とした佐々木さんは、病床で鶴を折り続け、「生きたい」という願いを託しました。その死をきっかけに、仲間たちが立ち上がり、世界中に平和のメッセージを届けるための募金活動を始め、結果として「原爆の子の像」が平和公園に建立されました。声をあげることで、世界を変えることができる。その事実が、目の前の像として子どもたちの胸に迫ってきた瞬間でした。
そしてはじまった無人島生活。便利さも安心もない環境で、自分たちの手と知恵で生き抜く時間が始まりました。水を運び、火を起こし、寝床をつくり、食材を調達してご飯を炊く。そのすべてが、「生きる』という行為に直結していました。
なかでも印象的だったのは「虫を食べる」という挑戦です。「バッタなんて絶対ムリ」と言っていた子が、宇佐美さんの「昔は、バッタやイナゴ、ヘビを砂糖醤油で食べるのがごちそうだったんだよ」という言葉や、仲間の後押しをきっかけに、「食べてみようかな」と一歩を踏み出しました。
「食べる/食べられない」という価値観の奥には、固定観念が潜んでいます。その枠を越えて、「本当にそうかな?」と考えはじめたとき、世界が広がり始めます。
その姿に、私たちは『想像する力』が持つ可能性を、改めて目の当たりにしました。
想像することで、他人の気持ちに寄り添える。
想像することで、自分の枠を越えられる。
想像することで、未来を選び取る勇気が湧いてくる。
核兵器がなくならないと決めつけたら、思考も行動も止まってしまいます。でも、「なくすことができるかもしれない」と想像できれば、人は動き出せる。「虫は食べられない」と思っていたことも、「食べてみたら意外といける」と気づくことで世界が広がる。
最終夜、焚き火を囲みながらみんなで語り合ったときの言葉がいまも心に残っています。
「知らない人と笑い合えたのが、うれしかった」
「自分にはできないと思ってたけれど、やってみたら案外できた」
「声をかけてもらって、うれしかった。支えてもらったから頑張れた」
「次は、自分が支える側になりたい」
その言葉の一つひとつを聴き、数日間の体験の重なりのなかで、今回の経験がどれほど子どもたちの心を揺らし、動かしてきたかが伝わってきました。
最終日の朝、ある子がぽつりとつぶやきました。
「なんとかなったね」
たった一言。でもその言葉には、不安も戸惑いも、勇気も挑戦も、全部が詰まっていたように感じます。火がつかない、ごはんが炊けない、釣れない、暑い、疲れた、眠い…。そんな数々の困難を、仲間と一緒に乗り越えて、「なんとかした」。この経験は、子どもたちのなかに「これからも、きっと大丈夫」という力強い灯をともしたことでしょう。
想像することで、世界は変わる。そして、想像する限り、未来には希望がある。私自身、それを強く感じるサマースクールとなりました。
このすべては、送り出してくださった保護者のみなさまのおかげです。信じて見守ってくださったからこそ、子どもたちは自分の足で歩み、かけがえのない経験を積むことができました。大切なお子さまをお預かりできたこと、そして一緒にこのサマースクールを歩めたことを、スタッフ一同心より嬉しく思っております。
またどこかでお会いできる日を楽しみにしています。改めまして、このたびは本当にありがとうございました。
2025年 夏
花まる学習会 カトパン/加藤崇彰
加藤崇彰(かとうたかあき)/カトパン
🌳花まる野外体験公式サイト
https://hanamaruyagai.jp/