【花まるコラム】『All For Oneの時間』棚橋修一

【花まるコラム】『All For Oneの時間』棚橋修一

 新年度が始まって数回の授業を経て、子どもたちとのペースもだいぶ合ってきていると感じています。これからも子どもたちが楽しみながら学べる空間を作れるように努めてまいります。今回は、私が授業のなかで大切にしていることをお伝えしたいと思います。

 以前、低学年クラスの授業でこんなことがありました。花まる学習会の低学年コースで扱う教材の一つに「たんぽぽ」というものがあります。古典の素読をおこなう教材で、子どもたちみんなで姿勢を整え、教室長のあとに続いて音読していきます。いつも通りに読み上げたあとで「では、一人でこの文章を読んでくれる人はいますか?」と問いかけてみました。するとKくんが「はい!」と何の躊躇もなく手を挙げました。少しつっかえながらも読み切ることができ、みんなでKくんに拍手!
 Kくんの表情もまんざらではありません。一人が手を挙げると、そのあとは次々と手が挙がります。多くの子が単独での音読を終えたところで教室を見回すと、まだ一人、音読をしていない子がいることに気がつきました。いつもなかなか手を挙げないAちゃんです。決して音読ができないわけではありません。しかし、どこか緊張してしまうのか、手を挙げるまでにはいたりません。
 ほんの束の間、Aちゃんの様子を見守ります。すると教室の子どもたちも、Aちゃんがまだ音読をしていないことに気がつきました。「あれ、Aちゃんまだ発表してないんじゃない?」Aちゃんの顔が赤らんでいきます。その表情は「やりたくない」というより「迷っている」ものだ、と私は感じられました。Aちゃんの担当講師も「やってみようよ」と声をかけますが、それでもなかなか手を挙げません。そこで私は「よし、じゃあAちゃん、音読をやってみよう!」と促してみました。そこまで言われたら仕方がない、といった顔のAちゃん。音読を始めようとしたところで、「ちょっと待って」と止めると、Aちゃんの視線が私のほうへ。「Aちゃん、音読する前に手を挙げよう!」笑顔でそう伝えると、Aちゃんは手を挙げ、音読しきることができました。そして、この日一番の拍手が教室に響き渡りました。

 Aちゃんは背中を押されたことで一歩進むことができましたが、子どもは追い込めばいつでも行動するというわけではありません。「じゃあ、また今度挑戦しようね」と伝えて授業を進めることも、もちろんあります。この日の授業では、教室の子どもたち全員がAちゃんのことを支える雰囲気を作ってくれたからこその成功体験だったと思うのです。
 授業の主役は、子どもたち一人ひとりです。そのなかで、ときに全員が一人の子のために働きかけてくれることがあります。そうしてみんなが伸びていく。「All For One」がみんなを成長させてくれのだと感じています。

 それからというもの、Aちゃんは前よりも少し手を挙げる回数が増えました。これからも一つひとつの成功体験を大切にしながら授業をおこなってまいります。

花まる学習会 棚橋修一(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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