【花まるコラム】『かけがえのない経験』濱口実莉

【花まるコラム】『かけがえのない経験』濱口実莉

 今年のサマースクールで出会った小学1年生のEちゃん。初めてのサマースクールで、飛び込みを楽しみに参加していました。1日目の午後は飛び込みを行う予定でした。しかし、川の水が浅いため安全管理の理由から、1日目の飛び込みは中止という判断がおりました。これを聞いたEちゃんが俯きがっかりした様子を見せたのはその瞬間だけ。数分後にはそんな姿はまったく見せず、班のみんなに明るく振る舞っていました。
 私はEちゃんが心配になり、声をかけることにしました。しかし、次の日に飛び込みができる保証はなかったので、私も何と声をかけてあげたらよいのか。言葉を詰まらせながらEちゃんに話かけました。
「E、飛び込みできなくて悔しいよね。辛くない?」
「悲しいよ。明日できるかな?実はね、飛び込みがあるからこのコースを選んだの!」
「そうだったんだね。明日できることを一緒に願おう!」
と1日目は終了。私は、悲しい気持ちを見せることなく明るく振る舞うEちゃんに感動したと同時に、無理をしていないか少し心配にもなりました。

 2日目の朝。Eちゃんの願いは届き、水位が上がったため、飛び込みができることになりました。「やったー!」と飛び跳ねながら喜ぶEちゃん。川に到着すると「どこで飛び込みするの?あそこ?あっちかな?」と、飛び込みのことで頭がいっぱいの様子でした。安全確保のため一人ずつ飛び込むので、順番待ちの時間がありました。Eちゃんは自分の番が来るまで友達の応援をして待っていました。自然と友達を応援できるところもEちゃんの素敵な一面です。

 やっと自分の番が回ってきたとき、Eちゃんの表情は固まっていました。あれだけ楽しみにしていた飛び込み。私はきっと笑顔で飛び込むのだろうなと思っていました。しかし、Eちゃんは
「こわい…」
と一言。確かに怖いのです。崖の上に立つと下は底が見えない川。実は私も立っているだけで足が竦みました。
 後ろには順番待ちをしている友達がいて、目の前には底の見えない川、川の向こう側には既に飛び込みを終えた仲間が見守ってくれています。何度も足を前に出すEちゃんですが、なかなか勇気が出ず、ついには涙がこぼれてきました。しかし、流れてくる涙を拭いじっと川を見つめるEちゃん。2分ほどが経ち、
「抱えて飛ぶこともできるよ。どうしたい?」
と伝えると
「いやだ!自分で飛びたい!」
と即答。「やりたい!」という気持ちは十分に持っています。あとは一歩踏み出す勇気だけ。何度も足を前に出しては戻す、の繰り返し。自然と涙も溢れてきます。きっとEちゃんの心のなかで、「やりたい!でも怖い、でも頑張りたい!」と感情が混同していたに違いありません。次には、「1・2・3」と手を振り飛び込もうとしますが、それでもあと一歩勇気が出ませんでした。もうそろそろタイムアップかなと、
「うしろの子に先に行ってもらって、お友達の飛ぶところを見てからでもいいよ?」
と伝えると首を振るEちゃん。そんなEちゃんの葛藤を見た周りの子どもたちからは、自然と
「頑張れ!頑張れ!」
と、頑張れコールが聞こえ始め、川の向こう側で見守ってくれている仲間からは
「E、頑張れー!」
「Eならできるよー!」
とたくさんの応援メッセージが届きました。その瞬間、いきなり飛び込んだのです。そのときの表情は、不安そうな表情のほうが強かったように思いますが、飛び込んだあと、川岸に上がったEちゃんは
「楽しかった!」
と満面の笑みを浮かべていました。

 誰にも甘えることができない環境だからこそ、自分の気持ちとしっかり向き合うことができたのだと感じます。この経験から普段の生活でも自分の気持ちと向き合うことができるようになり、自分で判断する力がつくのではないかと私は考えます。
 Eちゃんが飛び込んだあと、Eちゃんの勇気と頑張りにその場にいた全員が拍手を送っていました。仲間の応援のパワーを感じたとともに、Eちゃんの人柄がきっと周りの心を動かしたのだろうなと感じます。感動のあまり、私が静かに涙を流していたことはここだけの秘密です。

花まる学習会 濱口実莉(2021年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

花まるコラムカテゴリの最新記事