ある日の授業で取り組んだ3年生のなぞぺーに「指定の図形を見つけて数える」という問題がありました。1つ点を打ち、その下に2点、正三角形になるように打つ。さらにその下の段に同じように点を3つ、4つと打つ。底辺が4点、全部で10点が打たれた正三角形ができあがります。そのなかに、指定の図形をいくつ作ることができるのかを数えるというものです。3点をつなぐ小さな三角形にはじまり、大きな三角形や平行四辺形など、次第に難易度は上がります。
説明もそこそこに、さっそく挑戦。点を結びながら「1、2、3…」と数えていく3年生たち。「これでどう?」「惜しいな、まだあるんだよ!」「あ、ここにもある!」「まだ足りない!」「あれ、いまいくつまで数えたっけ?」と賑やかに取り組んでいたのですが、案の定、予想していたページでつまずきはじめます。この子たちが最も苦戦していたのは、5つの点をつないで作る台形の問題でした。刻々と時を刻む時計を見ながら、懸命に取り組む彼らを見守ります。
なぞぺーを終える時間が近づいてきました。「よく頑張って考えたね。ここまでにして、解説するよ」と伝え、ホワイトボードに描きながら説明しました。時間いっぱい考えたわけですし、子どもたちもある程度の達成感をもってこのページを終えられると思っていたのですが、「12個」とテキストに書き込んだ3年生たちは次のページに進まず、また点を結んで台形を描きはじめたのです。「答えは12個とわかったんだから、次のページに進まないの?」と聞くと、3年生たちは首を横に振り、「12個あることはわかったけど、その12個を自分で見つけないと気が済まないんだよ!」と返してきました。
その言葉を聞いて、私はハッとしました。答えが何かを知ることではなく、自分の力で突破することが大事なのだと、彼らが考えていることがわかったからです。その後も、12個の台形を書きながら探すわけですが、どうにも見つかりません。そこで、「じゃあ、ほかのページや作文など、今日の課題が全部終わったらまた台形のページに戻っていいよ!」と伝えると、3年生たちは目の色を変えてその他の課題に向かいました。そして、再び台形のページに戻ってくると、のめり込むように12個の台形を探し始めました。授業終了の直前、やっとのことで12個の台形を見つけたHくんは、「よっしゃー!」と雄叫びをあげて喜んでいました。
5月に実施した特別授業「算数大会」でも同様の光景が見られました。「キューブ合わせ」というゲームでのことです。問題をただクリアするだけでなく、より高い難易度でクリアして、ボーナスポイントの獲得を狙う子がいました。5年生Mくん、6年生Aくんです。積み上げては崩し、また積み上げては崩すことを繰り返すのですが、彼らはまわりにボーナスポイントを獲得した子がいても、決してその子からヒントをもらおうとはしませんでした。「クリアした子は、まわりの子にヒントを出してあげてもいいからね」と伝えていたので、教えてあげようとする子もいたのですが、「いや、ヒントは要らない」と全力で拒否していました。彼らもまた、自分の力で突破することにこだわり、それを大切にしているのです。
高学年以降も伸び伸びと学び、力をつけていく子どもに見られる共通項のひとつに、「自分の頭で考え、自分の力で突破することを大切にできる」という点が挙げられます。2年生までは周囲の大人が伴走し、ヒントや後押しをしながら最後は「自分でできた!」という達成感を味わって終えられればOK。その経験の蓄積が自信につながります。
3年生以降は、周囲の大人が横というよりも斜め後ろを走るイメージで、子どもが自分の力で頑張れるよう後押しをする。自分の力でやりぬくことに対する良い意味でのこだわりが出てくる時期だからこそ、教えすぎず、時間がかかっても自力で突破できると信じて見守る姿勢でいることが大切だと考えます。
思うようにいかず悔し泣きする子を見ると、伸びしろしかないな~と感じます。悔しくて泣けてしまうくらいがちょうど良いのです。それが「自分の力で突破する」という気持ちの源泉になるのですから。
花まる学習会 鈴木和明(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。