■「ことば、身体、学び」
最近、活字を読むのが苦手な私が、サクサクと読み進めている本があります。「走る哲学者」とも呼ばれる為末大氏と、言語習得研究の第一人者である今井むつみ氏の共著『ことば、身体、学び 「できるようになる」とはどういうことか』です。そのなかで「身をもって知る」ということの重要性について度々言及があります。ここ最近、改めてそれを感じることが多かったのでご紹介します。
■右が左で、左が右
教室で開催した表現ワークショップでのひとコマ。親が子に指示を出し、巨大なキューブを組み合わせて指定された形を作るゲームをしていたときのできごとです。問題を見られるのは親だけなので、子どもは言葉による指示を頼りにキューブを組み立てます。Sくんのお父さんは「左! 違う! そっちじゃない! 左、左だっ、そうじゃなくて!」とワタワタしながら指示を出します。Sくんもめげずに「こう? こっち?」とあれこれ試します。試行錯誤の末にやっとクリアしたとき、私が「お父さんから見た左はSくんから見たら右だもんな~」とフォローを入れると、Sくんのお父さんはハッと息を飲み、目を丸くして「たしかに!」と納得されたご様子。アンケートには「『伝えることの難しさ』『伝わっているという思い(勝手な思い込み)』『なぜ伝わらないんだ? なぜわからないの? というストレス』これら3つについて普段の自分を振り返るきっかけになった。子どもが理解できる言葉選び、表現になっていないんだろうと気づいて相手の反応を待つ時間をもとうと思った」と感想を綴られていました。90分でそこまで感じ、言語化できるSくんのお父さんがすごいのはもちろんですが、ハウツー本や動画で啓蒙のように伝えるのではなく、身体的な体験とともに記憶に刻まれる機会を微力ながら提供できたことが誇らしいと思いました。
■主体性が追いついてくる
ある日、4年生Rちゃんのお母さんからご連絡がありました。内容は「国語力について学校の先生から褒められた」というもので、言葉調べ(言葉の意味を調べる高学年クラスの宿題)や作文など花まるでの取り組みの成果です、とありがたいお言葉をいただきました。そのなかで、Rちゃんの発言として「言葉調べはね、ときどき面倒だと思うこともあるんだけれど、調べた言葉を作文とかに使えるから、便利だと気づいたんだよ!」というものがありました。これこそが成績アップの要因ではないでしょうか。作文や言葉調べはきっかけに過ぎず、肝心なのはRちゃん自身がそこに納得し自分ごととして取り組めるようになった、という一点にあると考えます。入口こそ「言われたからやる」というものだったかもしれませんが、次第に「なんでやるんだろう?」と自分自身に問いかけることで主体性が身についたのでしょう。
■「腹落ちする」とはよく言ったもので
教室で子どもたちを見ていると、「わかった!」と言う子は実はあまりわかっておらず、「なるほど!」という子が本質的な理解をしている傾向にあることに気づきます。おそらく「わかった!」は段取りを把握した・覚えたという感覚、「なるほど!」はその段取りがなぜ必要なのか、どういうロジックで成立しているのか、そういった部分まで考えが至り、納得をしたという感覚なのでしょう。「腹落ちする」とはよく言ったもので、人間の理解は頭で終わりではなく、腹に落ちる(身体的な感覚と接続する)ところまでがセットだということを啓示しています。
ことばと身体と学びの関係は、これからも私にさまざまな気づきを与えてくれることでしょう。
花まる学習会 臼杵遥志(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。