【花まるコラム】『勇敢なサムライたち』小林千尋

【花まるコラム】『勇敢なサムライたち』小林千尋

 私がこの夏に参加したサマースクールの「サムライの国」のコースでも、子どもたちのさまざまな葛藤が見られました。サムライの国では、子どもたちはスポンジの刀を持ち、命の代わりとなる紙風船を太ももにつけてサムライとして戦います。紙風船が割れたり落ちたりした時点で失格、相手の総大将を討ち取るか、相手を全員倒したら軍にポイントが入ります。最終的に最も多くポイントを獲得した軍が天下統一(優勝)となります。

 3泊4日の3日目、最終戦がおこなわれました。最後は子どもたちだけで戦う子ども大将戦です。「大将をやりたい人?」と聞くと「はーい!」とみんなが手を挙げるほど、大将として戦いたい子はたくさんいました。そのなかで最後の子ども大将を務めたのは、6年生のYくんでした。Yくんが大将をつとめることに決まったとき、まわりからはこんな声が飛び交いました。

 「Y、いけ!」「Yならできるぞ!」「Yに任せよう!」「やっぱりYだよな!」

 これはきっと、いちサムライとして戦ってきたYくんの姿勢や集団生活での姿を見て、この人なら任せられる、この人にお願いしたいという気持ちが芽生えたからでしょう。Yくんには仲間からの厚い信頼があったのです。仲間からの声援に背中を押され、Yくんは「任せろ!」と胸を張って戦場に向かって歩き出しました。Yくんの背中は自信とやる気に満ちあふれていて、これからどのような戦いが繰り広げられるのか楽しみになりました。

 合戦が始まると、Yくんは仲間に指示を出したり自ら攻撃に行ったりと積極的な姿勢を見せていましたが、どこの軍も一歩も譲らない接戦となりました。結果は3軍とも生き残り、天下統一戦の勝負の行方は大将同士の一騎討ちへと持ちこまれました。今回は三つ巴となったため、3軍それぞれの子ども大将が代表として軍を背負って戦います。Yくんは「行ってくるよ!」と刀を高く挙げ、うしろを振り返ることなく戦場へと向かっていきました。その姿はとても勇ましく、まるで本物のサムライのようでした。

 いよいよはじめの合図が鳴り、天下統一を懸けた熱い戦いが始まりました。3人が牽制し合いながら隙を狙って攻めにいきます。Yくんの軍は「Y頑張れー!」という仲間の声と拍手で懸命に応援します。すると、「パン!」という音が聞こえました。戦場が静まり返ります。みんなの視線の先には割れた風船。その主は相手軍の風船でした。なんと、Yくんが相手軍の風船を割ったのです。「よし!」というYくんのガッツポーズとともに「やったー! Y、すごいぞ!」という仲間の歓喜の声が一斉にあがりました。みんなの胸が高鳴ります。あと一人倒せば天下統一…。精一杯の力で両手を合わせ、みんなでYくんにパワーを送りました。「パン!」また音がしました。祈るような思いで、Yくんに視線を送ります。するとそこには、割れた風船と驚いた表情のYくんが。一瞬、時が止まったような気さえしました。天下統一まであと一歩のところで惜しくも敗れてしまったのです。Yくんは「ちくしょー!」と悔しがりながら仲間の元へ帰ってきましたが、そこにはYくんを心から称える仲間たちが待っていました。「お疲れさま! かっこよかったぞ! よくがんばったな!」と声をかけられながらYくんは仲間たちと抱き合いました。そして、「悔しいけれどやりきった! 悔いはない!」と満面の笑みを浮かべ、「みんなありがとう!」と深くお辞儀をしました。

 この3泊4日、子どもたちには楽しさ、喜び、悔しさ、悲しみ、さまざまな感情が芽生えたことでしょう。強い絆で結ばれた仲間の存在があったからこそ、その感情を分かち合うことができたのだと思います。子どもたちの熱い思いと仲間を思いやる気持ち、そしてその思いに応える勇敢なサムライの姿は、それはそれは美しいものでした。仲間がいる素晴らしさを知った彼らには、この夏の思い出を胸に、強く優しいサムライの心を持ち続けてほしいと思います。

花まる学習会 小林千尋(2022年)


*・*・*花まる教室長コラム*・*・*

それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。

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