私が確か、小学生だった頃のこと。家の居間で一人のんびり過ごしていると、ふと部屋の収納棚に目が留まりました。ビデオテープや飼っていたインコの餌、過去のアルバムなどいろいろなものが入っている棚でした。時間を持て余していた私は、次々と引き出しを開けて中身を引っ張りだしているうちに、小さな1冊の手帳を見つけました。表紙には、「すみれ組」と書かれていました。それは、私が通っていた幼稚園の連絡帳でした。「何が書いてあるのだろう?」好奇心をかき立てられ、すぐに開きました。ペラペラとめくっていくと、しばらく続く先生方からのメッセージ。幼稚園での私の成長が記録されていました。先生方の柔らかな笑顔が思い出される鉛筆の筆跡が続くなか、突然ボールペンで書かれた濃い文字が現れました。母から先生に向けて書かれたコメントです。先生方からのメッセージにこれまで何もコメントをしていなかった母が筆を執ったのは、先生からこのような質問があったからです。
最近美耶乃ちゃんは、お友達と遊んでいる途中でふと教諭のところへやって来て、『見て見て!』と言うことが増えました。ご家庭でお友達について美耶乃ちゃんは何かお話ししていますか?
それに対し、母はこうコメントしていました。
たまにお友達とのトラブルはあるようです。何か我慢していることはある? と聞くと、たまに我慢してるよ、と大人びて答えます。そういうときは先生のもとへと行くこともあるのかもしれないですね。家でもお兄ちゃんと遊んでいて時々台所に入ってきて「お母さんしゅき!」と言って抱きつき、そしてまたお兄ちゃんのいる部屋へと戻っていきます。幼稚園は楽しいと言っておりますので、時々先生のところへ行ったときはただあまえられればきっと満足しているのだと思います。
小学生だった頃の私は、それを読むとすぐに母のところへ行き「この連絡帳、もらっていい?」と許可を得て、自分の机に大事にしまいました。
私の母は、直接言動で愛を伝えるのが苦手で(いまでも母は口下手です)、私には、母に褒められたり愛でられたりした記憶がほとんどありません。だからといって愛情不足だったわけでもありません。それでも、当時の私は母のコメントを読んで、「お母さんは私のことを見てくれていたんだ」「私は愛されているんだ」と、とっても幸せな気持ちになったのです。ただ家での様子と母の意見を伝えただけのコメントですが、私にとっては、口下手な母からの愛のメッセージであり、宝物なのです。いまでも時々その連絡帳を見返しては、「ふふ、私、愛されてる!」と幼子のように満足してしまうのですから、母の愛というのは偉大なものです。
花まるでも、保護者の方々が連絡帳にわが子の様子を書いてくださることも。「セミ取りにハマっています」「自転車に乗れるようになりました」など、最近の様子を教えてくださいます。それらのコメントを見ると、私は「将来この連絡帳はこの子にとって宝物になるだろうなぁ」と温かい気持ちになります。一度文字に宿した愛は、時が経っても色褪せることはありません。
お誕生日にお手紙を渡したり、ご自身の日記にわが子に対する想いを綴ったり、花まるで使用している連絡帳に普段のわが子の様子を記録したり。目に見える形で、わが子への愛情を残してみるというのはいかがでしょうか。きっとご家族にとって、かけがえのない宝物になることでしょう。
花まる学習会 加藤美耶乃(2023年)
*・*・*花まる教室長コラム*・*・*
それぞれの教室長が、子どもたちとの日々のかかわりのなかでの気づきや思いをまとめたものです。毎月末に発行している花まるだよりとともに、会員の皆様にお渡ししています。